勝負を決する戦術(その①) UEFA EURO 2024 決勝戦

勝負を決する戦術 スペイン対イングランド UEFA EURO

サッカーの試合では、選手交代やシステムの変更により試合の流れに変化が起こり勝負の行方が決する事があります。
今回はそのような試合としてUEFA EURO 2024(サッカー欧州選手権)決勝戦、スペイン代表 対 イングランド代表の一戦を取り上げたいと思います。

UEFA EURO Final スペイン代表 対 イングランド代表

2024年7月15日
【UEFA EURO 2024 決勝戦】
スペイン代表 2-1 イングランド代表

[メンバー]

スペイン代表
監督 ルイス デラフエンテ

【スタメン】

23 ウナイ シモン (GK)
2 ダニエル カルバハル
3 ロビン ルノルマン
7 アルバロ モラタ
8 ファビアン ルイス
10 ダニ オルモ
14 アイメリク ラポルト
16 ロドリ
17 ニコ ウイリアムス
19 ラミン ヤマル
24 マルクク クレジャ

【交代】

18 マルティン スビメンディ
(ハーフタイムIn)
➡ロドリ Out
21 ミケル オヤルサバル (68分In)
➡モラタ Out
4 ナチョ フェルナンデス (83分In)
➡ルノルマン Out
6 ミケル メリーノ (89分In)
➡ラミン ヤマル Out

イングランド代表
監督 ギャレス サウスゲイト

【スタメン】

1 ジョーダン ピックフォード (GK)
2 カイル ウォーカー
3 ルーク ショー
4 デクラン ライス
5 ジョン ストーンズ
6 マーク ゲイェ
7 ブカヨ サカ
9 ハリー ケイン
10 ジュード ベリンガム
11 フィル フォデン
26 コビー メイノー

【交代】

19 オリー ワトキンズ (61分In)
➡ハリー ケイン Out
24 コール パルマー (70分In)
➡メイノー Out
17 アイバン トニー (89分In)
➡フォデン Out

ハーフタイムの選手交代とシステム変更で
試合の流れを掴んだスペンイン代表

多彩な攻撃で対戦相手を粉砕し全勝で勝ち上がって来たスペイン。粘り強いサッカーで接戦をものにしてきたイングランド。
対照的な形で勝ち上がって来たチーム同士の対戦となった決勝戦。前半はイングランドが試合のペースを握ったものの、後半に入りスペインが大胆な戦術的変化により試合の流れを引き寄せて勝利をものにした。

前半苦しんだスペインが、如何にして試合の主導権をイングランドから奪ったのかをみていきます。

前半の展開

[システム図①]左:スペイン(赤) 右:イングランド(白)
試合開始時

イングランドペースの前半、多くのポジションでマッチアップが噛み合い
狭い局面での攻防が中心になる

スコアレスだった前半、マッチアップの嚙み合わせは[システム図②]で示したように中盤とサイドでがっつりと噛み合う形に。必然的に1対1の状況が多く生まれ、球際の攻防が激しくなる。
この状況で優位に立ったのはイングランド。
突破力のあるスペインの両ウイング(WG)、ラミン ヤマルとニコ ウイリアムスに対してイングランドはルーク ショーとカイル ウォーカーが真正面から待ち構える形でマッチアップ。高い技術力で違いを作るダニ オルモに対してはライスがしっかりとついて行く。
スペインの高い得点力の源である2列目の3選手に対して、イングランドは徹底マークを敢行できる体制を作り見事に抑え込んでみせた。

スペインは左インサイドハーフのファビアンが中盤の底まで下がったり、右インサイドハーフのダニ オルモがトップ下に進出するといった形で動きをつけてマークを剥がそうとするが、イングランド中盤のマークを掴む動きがスペインの中盤を上回り思うようにマークを剥がす事ができず、常にイングランドの選手に掴まれている状態だった。

唯一マッチアップにズレが生じているのがCB対CFのポジションで、ここは2対1の状況になっている。
このズレは、後半に試合の流れがスペインへと傾く時のポイントの一つとなる。

[システム図②]
前半、両チームのシステムを嚙み合わせたマッチアップ図
中盤の3枚と両サイドの2枚(計7枚)のマッチアップが完全に噛み合う状態
前半は両チームの中盤と両サイドでマッチアップが完全に噛み合うので、両チームの選手が各所でマッチアップし合う状態。
スペインは⑧ファビアンが中盤の底へ下がったり、⑩ダニ オルモがトップ下へと進出するといった動きでイングランドのマークを剥がそうとするが、イングランドの中盤は㉖メイノーや④ライスが的確にマークを掴んでくる。
イングランド中盤のマークの掴みの安定はサイドにも好影響を与える。スペインの強力な両WG、⑰ニコ ウイリアムスと⑲ラミン ヤマルに対して、イングランドは②カイル ウォーカーと③ルーク ショーが正面から待ち受ける形でマークを掴む。1対1に強いカイルウォーカーとルークショーはスペインの両WGをしっかりと封じ込める。

前半唯一マッチアップが噛み合わずにズレが生じたのがCB対CFのポジション。
ここだけは2対1になっていた。

前半、スコアは0対0だったが試合の主導権はイングランドが握っているようにみえた。

スペインは2列目の3人が封じられていて、思うように攻められなかった。

後半開始直後の展開

[システム図③]
後半開始時
スペイン(赤)は⑱スビメンディを投入(ロドリが怪我によりOut)し、中盤の並びも変更する

後半のスペイン、中盤の構成を変えた事と
ファビアンの大胆な動きでマークのズレを作る

前半イングランドにがっつりとマークを掴まれ、本来の攻撃力を封じられたスペインはハーフタイムに前半戦で負傷したロドリに代えてスビメンディを投入。それと同時に中盤センターの並びもワンアンカーからダブルボランチに変更。それにより両チームのシステムを重ねると中盤のマッチアップにズレが生じるようになる。
またスペインは後半に入りビルドアップの際にCB対CFのマッチアップが2対1になる状況を活用して、CBがボールを頻繁に持ち上がる。イングランドは前線の数的不利を解消する為に中盤のフォデン(70分以降はパルマー)が前に出るが、すると今度は中盤の人数が足りなくなる。

後半のスペインは立ち上がりから、後方での数的有利と中盤でのマークのズレを活用してスムーズにボールを前方に運ぶようになる。

[システム図④]
スペインがシステムを変更した後の中盤のマッチアップ
スペインはハーフタイムの選手交代に伴い、中盤の並びを逆三角形から三角形に変更。
前半のマッチアップが噛み合う状態から、後半はマッチアップにズレが生る状態へと変化する。

CBのボールの持ち上がりや、中盤の並びの変化でボールを前に運ぶ局面で優位性を作ったスペイン。
更にスペインは前進局面でファビアン ルイスが中盤の左側から右サイドへポジションを移動する。
この動きでスペインの中盤はイングランド中盤のマークを剥がす事になる。その効果はサイドにも波及し、ルーク ショーやカイル ウォーカーのマークにもズレが生じるようになる。
自由を得たスペインの両WG、ラミン ヤマルとニコ ウイリアムスは早速持てる能力を発揮。後半開始から2分で先制ゴールを奪う。

[システム図⑤]
後半のスペインの攻撃に於ける、マークを剥がすメカニズム
ファビアンのポジションチェンジによりサイドのマッチアップにズレが生じる
後半、攻撃の初期段階でマークのズレを生じさせるスペイン。更に最終ラインから中盤へボールが入り攻撃が前進した段階で、⑧ファビアンがフィールドの左側から右側へポジションを移し中盤で浮いた状態になる。
本来②カルバハルをマークする⑩ベリンガムはファビアンの動きに意識を向けざるを得ず、その分カルバハルへのマークが甘くなる。
自由を得たカルバハルは右サイドで積極的に攻撃に絡みだす。すると③ルーク ショーはカルバハルへの対応を強いらるようになる。
前半はルーク ショーに正面からマークにつかれ、攻撃を封じられていた⑲ラミン ヤマルが後半はルーク ショーの背後にポジションを取れるようになり、自慢の突破力を遺憾なく発揮するようになる。

47分の先制ゴールは、右サイドでルーク ショーの背後を取ったラミ ンヤマルへカルバハルがダイレクトで送ったパスがきっかけだった。
正に上記した
メカニズムを最大限に生かした結果だった。

前半はマッチアップの嚙み合わせにより苦戦したスペイン

後半に入り攻撃の方法を修正した事に加えて、中盤の並びを変えてマッチアップの嚙み合わせに変化をつけた事で試合の流れを一気に引き寄せた

スペインが先制ゴールを挙げて以降の試合展開

マッチアップの嚙み合わせにズレを生じさせて先制ゴールを挙げたスペイン。その後もイングランドは、前半の試合内容が嘘のようにマークを掴む事に苦戦する。

ただマッチアップがズレるという事は展開がオープンになり、イングランドにもチャンスが訪れる。73分にイングランドは、ベリンガムがククレジャのプレスを寸前でかわしてパルマーへパスを捌いた事をきっかけにチャンスを作り、最後はパルマーがシュートを決めて同点に追いつく。

スコアは1対1の同点となったものの、その後の試合展開もスペインが優位に進める。
そして86分、スペインは自陣のスローインから連続で縦パスを繋ぐと、オヤルサバルがククレジャとのワンツーパスでイングランドのディフェンスライン裏へと抜け出しゴールを決める。
このゴールが勝負を決する決勝ゴールとなりスペインがイングランドを下して、4度目の欧州制覇を達成した。

コメント

タイトルとURLをコピーしました