前回の投稿で、人々を魅了するサッカーの一つとしてガラタサライがみせた
『高い位置から数的同数でマークを嵌め込み、積極的にボールを奪いに行く』
サッカーを取り上げました。
同様のサッカーを行うチームとしてアタランタBCもまた、多くの人々の印象に残っているのではないでしょうか。
今回はセンセーショナルなサッカーでレバークーゼンを破り欧州タイトルを獲得したアタランタのプレスディフェンスを取り上げたいと思います。
※ガラタサライのプレスディフェンスはこちらで取り上げています。もしよろしければご覧下さい。
アタランタBC
無敗の快進撃を続けるレバークーゼンを、見事に打ち破ったアタランタ
サッカーファンに多くの話題を提供した23‐24シーズン。
バイヤー・レバークーゼンによる無敗の快進撃もその中の一つとして、多くのサッカーファンの興味を引いたのではないでしょうか。
UEFAヨーロッパリーグ(EL)、ブンデスリーガ、DFBポカールと、出場する大会を無敗で戦い抜くレバークーゼンに対して
「欧州で最も魅力的なチームのひとつ」
「欧州で最も強力なチームのひとつ」
と高く評価する方が多数存在しました。
そんなレバークーゼンに対して23‐24シーズンで唯一の黒星をつけたのがELの決勝戦で対戦したアタランタでした。
アタランタのサッカーもまたレバークーゼンに負けず劣らずの魅力的なサッカーを実践するチームでした。
今回はレバークーゼンのサッカーを完璧に封じ込めた、23‐24シーズンEL決勝戦でのアタランタのプレスディフェンスを取り上げたいと思います。
アタランタのフォアプレス
UEFAヨーロッパリーグ 決勝戦(2024年5月23日) 対 バイヤー・レバークーゼン 戦
アタランタBC 3-0 バイヤー・レバークーゼン
[メンバー及び試合開始時のシステム]
アタランタBC
監督 ジャンピエロ ガスッペリーニ
【スタメン】
1 | フアン ムッソ (GK) |
4 | イサク ヒエン |
7 | トゥーン コープマイネルス |
11 | アデモラ ルックマン |
13 | エデルソン |
17 | シャルル デケテラーレ |
19 | ベラト ジムシティ |
22 | マッテオ ルッジェーリ |
23 | セアド コラシナツ |
77 | ダビデ ザッパコスタ |
90 | ジャンルカ スカマッカ |
【交代】
42 | ジョルジョ スカルビーニ (ハーフタイムIn) |
➡コラシナツ Out | |
8 | マリオ パシャリッチ (57分In) |
➡デケテラーレ Out | |
10 | エルビラル トゥレ (84分In) |
➡スカマッカ Out | |
33 | ハンス ハーテブール (84分In) |
➡ザッパコスタ Out | |
2 | ラファエウ トロイ (90+1分) |
➡ルッジェーリ Out |
バイヤー・レバークーゼン
監督 シャビ アロンソ
【スタメン】
17 | マチェイ コバール (GK) |
2 | ヨシプ スタニシッチ |
3 | ピエロ インカピエ |
4 | ヨナタン ター |
10 | フロリアン ビルツ |
12 | エドモンド タプソバ |
20 | アレハンドロ グリマルド |
21 | アミン アドリ |
25 | エセキエル パラシオス |
30 | ジェレミー フリンポン |
34 | グラニート ジャカ |
【交代】
22 | ビクター ボニフェイス (ハーフタイムIn) |
➡スタニシッチ Out | |
8 | ロベルト アンドリヒ (69分In) |
➡エセキエル パラシオ Out | |
23 | アダム フロジェク (69分In) |
➡アレハンドロ グリマルド Out | |
14 | パトリック シック (81分In) |
➡ビルツ Out | |
19 | ネイサン テラ (81分In) |
➡フリンポン Out |
[システム図①]左:アタランタ(青・黒) 右:レバークーゼン(白・紅)
試合開始時
ガスペッリーニ式のマンマークディフェンスがレバークーゼン相手に炸裂
戦前から好ゲームになるのではないかとファンから大きな期待を寄せられていた23‐24シーズンのEL決勝戦は、アタランタがアデモラ ルックマンのハットトリックにより無敗の快進撃を続けていたレバークーゼンを撃破。チーム史上初の国際タイトルを獲得しました。
この決勝戦、アタランタにとってはルックマンのハットトリック以上に高く評価されたのが
「前に出て、ほぼマンツーマンの形でマークを掴むプレスディフェンス」
でした。
レバークーゼンのビルドアップに対してアタランタは数的同数で前からマークを掴み、ボールホルダーに対して激しくプレッシャーをかけます。レバークーゼン陣内でボールを失った時もビルドアップに対するプレスと同様に数的同数でマークを掴み、直ちにボールを奪い返しに行きます。
アタランタはこのレバークーゼン陣内での攻防で優位に立ちます。
レバークーゼンのビルドアップに対するアタランタのマッチアップ
レバークーゼンの最終ラインと中盤に対して、積極的に前に出てマークを掴みに行く。
マッチアップの組み合わせは、システムの嚙み合わせに則った形をとる。
更にアタランタは、レバークーゼンが前方にボールを運んでアタランの第一プレッシャーラインを越えて来た時や、自陣でボールを失った際も厳しい守備対応を行いレバークーゼンにプレッシャーをかけます。
自陣では、まず5‐4‐1の陣形を組みそこからマークを掴んでのマンマークディフェンスとなります。
レバークーゼンの前線はアタランタ陣内では流動的にポジションを入れ替えてきます。対してアタランタの守備陣は、自身のゾーンに侵入して来たレバークーゼンの選手を掴む形でマークします。
結果的にマークを受け渡す形での守備になりますが、受け渡すタイミングが的確でマークのズレが殆ど起こりませんでした。
アタランタ、自陣に攻め込まれた際のマッチアップ
レバークーゼンのアタッカー陣は⑩ビルツが中央に侵入し㉑アミン アドリが外に開いたり、②スタニシッチと㉚フリンポンがポジションを入れ替えたりと流動的にポジショニングしてくる。
対してアタランタの守備陣はマークを受け渡す形で、自身のゾーンに侵入して来た選手のマークにつく。
アタランタは通常の嚙み合わせのマッチアップに於いて、各マッチアップで軒並み優位に立ちます。そして、レバークーゼンのポジションチェンジに対してマークを受け渡してからのマッチアップでも優位な状態を維持していました。
レバークーゼンは中盤での数的優位を作る為にセンターバック(CB)が度々攻撃参加してくるが、その際は元々のマッチアップマンのデケテラーレやルックマンがそのまま下がってついて行きます。
レバークーゼンのCBが攻撃参加した際の守備対応
レバークーゼンのCB、③インカピエや⑫タプソバが攻め上がれば、元々マッチアップしていた⑰デケテラーレや⑪ルックマンがそのままついて行きマークし続ける。状況によっては自陣深くまで戻ってマークする事になる。
前半のアタランタは各マッチアップでことごとく優位に立ち、レバークーゼンの流動的な攻撃を完璧に近い形で封じる。
前半、流動的な攻撃を封じられたレバークーゼンは、ハーフタイムにボニフェイスを投入。ボニフェイスをセンターフォワード(CF)に据える事で前線にボールの収め所を作ります。
前半とは異なる形で攻撃を組み立てようとするレバークーゼンに対して、アタランタは引き続きマンマークの形でマークを掴み前半同様の厳しいディフェンスを敢行。レバークーゼンの攻撃を後半も封じ続けます。
後半、レバークーゼンのアタッカー陣に対するマッチアップ
後半のレバークーゼンはボニフェイスをCFに入れてボールの収め所とした事で、ポジショニングの流動性が減少。その為アタランタにとってはシステムの嚙み合わせに則ったマッチアップの組み合わせになる事が多かった。
前半に引き続きレバークーゼンの攻撃を封じるアタランタ。
中盤のコープマイネルスとエデルソンはレバークーゼンの中盤を抑え込むだけにとどまらず、ルーズボールを巡る攻防に於いてもレバークーゼンを圧倒。こぼれ球をことごとく拾い続ける。
また途中出場のスカルビーニやパシャリッチも、出場してからすぐに試合の流れに乗りマッチアップマンを圧倒する。
結局アタランタは、90分間を通じて殆どのマッチアップを制してレバークーゼンの攻撃を完封。攻めてもルックマンがハットトリックの大活躍。
決勝の大舞台で、レバークーゼンを相手に3対0の完勝を収めた。
個々の選手の活躍
最後に、この試合でマンツーマンによるプレスディフェンスを実行する上で、特に活躍した5選手を取り上げたいと思います。
セアド コラシナツ | マッチアップするフリンポンを1対1で完璧に封じ込める。フリンポンとスタニシッチのポジションチェンジに対してもルッジェーリと的確にマークを受け渡し、スタニシッチを完封してみせた。 |
マッテオ ルッジェーリ | 守備面で左サイドを制圧。前半はコラシナツと、後半はスカルビーニと、いずれも好連携をみせた。 |
イサク ヒエン | 前半は主にビルツと、後半はボニフェイスとマッチアップ。力強い守備で優位性を保ち、レバークーゼンの攻撃の中心選手を抑え込んだ。 |
エデルソン | ジャカとマッチアップしてジャカを封じ込めつつ、最終ライン手前のフィルターとしても好守備を連発。こぼれ球もことごとく回収した。 |
ジョルジョ スカルビーニ | コラシナツの怪我によりハーフタイムに急遽の出場となったが、前半に圧倒的なパフォーマンスをみせたコラシナツに勝るとも劣らない出来で、後半の左サイドを制圧した。 |
コメント