臨機応変な戦い方で勝ち続けるレアル・マドリード
23‐24シーズン、ラ・リーガとUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を制したレアル・マドリード。
レアルの特徴として、対戦相手によって臨機応変に戦い方を変える事が挙げられます。
今回のサッカー観戦記はレアルがCLを勝ち上がる上で如何に多彩な戦い方をみせたのかを、守備面にフォーカスして見ていきたいと思います。
チャンピオンズリーグの勝ち上がり
【グループステージ】
グループC
1位 6勝 0分 0敗 勝点18 得点16 失点7 得失点差+9
【決勝トーナメント】
Round of 16
対 RBライプツィヒ 2試合合計 2ー1(1-0、1-1)
Quarter Final
対 マンチェスター・シティ 2試合合計 4-4(3-3、1-1) PK4-3
Semi Final
対 バイエルン・ミュンヘン 2試合合計 4-3(2-2、2-1)
Final
対 ボルシア・ドルトムント 2-0
レアル・マドリードのディフェンスについての考察
決勝トーナメントでのレアル・マドリードは、いずれのラウンドも接戦を制して勝ち上がってきました。
その中で、ラウンド毎に対戦相手に対応した守備をみせたレアル。
ここでは各ラウンドでみせた守備の特徴を見ていきます。
取り上げる試合
【1】Round of 16 1st leg(2024年2月14日) 対 RBライプツィヒ 戦
【2】Quarter Final 2nd leg(2024年4月18日) 対 マンチェスター・シティ 戦
【3】Semi Final 1st leg(2024年5月1日) 対 バイエルン・ミュンヘン 戦
Round of 16 対 RBライプツィヒ 戦 1st leg
メンバー及び、試合開始時のシステム
RBライプツィヒ
監督 マルコ ローゼ
【スタメン】
1 | ペテル グラーチ (GK) |
2 | モアメド シマカン |
4 | ビリ オルバン |
7 | ダニ オルモ |
16 | ルーカス クロスターマン |
17 | ロイス オペンダ |
20 | チャビ シモンズ |
22 | ダビド ラウム |
24 | ザベル シュラーガー |
30 | ベンヤミン シェシュコ |
39 | ベンヤミン ヘンリヒス |
【交代】
6 | エリフ エルマス (76分In) |
➡ダニ オルモ Out | |
8 | アマドゥ ハイダラ (76分In) |
➡ヘンリヒス Out | |
9 | ユスフ ポウルセン (76分In) |
➡オペンダ Out | |
44 | ケビン カンプル (90+1分In) |
➡シュラーガー Out |
レアル・マドリード
監督 カルロ アンチェロッティ
【スタメン】
13 | アンドリー ルニン (GK) |
2 | ダニエル カルバハル |
6 | ナチョ フェルナンデス |
7 | ビニシウス ジュニオール |
8 | トニ クロース |
11 | ロドリゴ |
12 | エドゥアルド カマビンガ |
15 | フェデリコ バルベルデ |
18 | オウレリアン チュアメニ |
21 | ブラヒム ディアス |
23 | フェルラン メンディ |
【交代】
17 | ルーカス バスケス (84分In) |
➡ブラヒム ディアス Out | |
14 | ホセル (84分In) |
➡ロドリゴ Out |
左:ライプツィヒ(白) 右:レアル(黒)
[システム図①]
試合開始時
試合(守備)のポイント
トランジションの攻防で真っ向勝負を挑むレアル
Round of 16の対戦相手ライプツィヒはトランジション(攻守の切り替え)の攻防に強さを発揮する。そんなライプツィヒを相手にレアルはトランジション局面で真っ向勝負に出る。
このシリーズでは特にネガティブトランジション(攻から守の切り替え)に重きを置き、ボールを奪えば素早く縦方向に進むライプツィヒに対して、ボールを奪われた瞬間からチーム全体で強い対応をみせる。
レアルはボールを奪われると、ボールホルダー周囲の選手が素早くボールホルダーへ寄せて行く。チーム全体でも陣形をボールサイドに寄せて行く事で、ボールホルダーとその周囲の選手に対してプレッシャーをかける。
また、ライプツィヒが最初のプレスを突破した先のエリアや、プレッシャーから逃れる為の逃げ道となるコースにも的確に選手を配置。二重三重にプレスの網を敷いてボールを奪い返しに行く。
下記の[システム図②-(1)(2)]で示した58分頃の動きは、この試合に於けるレアルのネガティブトランジションでの動きをよく表していた。
58分頃 レアルのネガティブトランジション(その1)
前進するライプツィヒに対してプレッシャーをかける
レアルボールのスローインを奪ったライプツィヒは②シマカン、㉚シェシュコ、⑳チャビ シモンズとボールを繋いで前進する。
レアルは㉓メンディがしつこくボールを追いかけてプレッシャーをかけると、シェシュコからのパスを受けたチャビシモンズに対してメンディと⑧クロースが挟み込んでボールをカット。ボールはルーズボールとなる。
58分頃 レアルのネガティブトランジション(その2)
しつこいプレスと的確なポジショニングでこぼれ球を巡る攻防を制する
[システム図②-(1)]からの続き
こぼれ球を拾った⑰オペンダへ⑮バルベルデが寄せて行き、ボールは再びルーズボールに。
このボールを拾った⑳チャビ シモンズへバルベルデが再度寄せて行き、⑧クロースもプレッシャーをかける。
球際の攻防から少し離れた位置では㉓メンディがライプツィヒの進行方向を、⑫カマビンガが後方の逃げ道を塞ぐようポジショニングを取る。
最終的にはクロースがボールをカットして後方の⑥ナチョフェルナンデスへボールを渡す。
Quarter Final 対 マンチェスター・シティ 戦 2nd leg
メンバー及び、試合開始時のシステム
マンチェスター・シティ
監督 ジョゼップ グアルディオラ
【スタメン】
31 | エデルソン モライス (GK) |
2 | カイル ウォーカー |
3 | ルベン ディアス |
9 | アーリング ホーラン |
10 | ジャック グリリッシュ |
16 | ロドリ |
17 | ケビン デブライネ |
20 | ベルナルド シウバ |
24 | ヨシュコ グバルディオル |
25 | マヌエル アカンジ |
47 | フィル フォデン |
【交代】
11 | ジェレミー ドク (72分In) |
➡グリリッシュ Out | |
19 | フリアン アルバレス (EX開始時In) |
➡ホーラン Out | |
5 | ジョン ストーンズ (112分In) |
➡アカンジ Out | |
8 | マテオ コバチッチ (112分In) |
➡デブライネ Out |
レアル・マドリード
監督 カルロ アンチェロッティ
【スタメン】
13 | アンドリー ルニン (GK) |
2 | ダニエル カルバハル |
5 | ジュード ベリンガム |
6 | ナチョ フェルナンデス |
7 | ビニシウス ジュニオール |
8 | トニ クロース |
11 | ロドリゴ |
12 | エドゥアルド カマビンガ |
15 | フェデリコ バルベルデ |
22 | アントニオ リュディガー |
23 | フェルラン メンディ |
【交代】
10 | ルカ モドリッチ (77分In) |
➡クロース Out | |
21 | ブラヒム ディアス (84分In) |
➡ロドリゴ Out | |
17 | ルーカス バスケス (102分In) |
➡ビニシウス Out | |
3 | エデル ミリトン (111分In) |
➡カルバハル Out |
左:シティ(水色) 右:レアル(黒)
[システム図③]
試合開始時
試合(守備)のポイント
圧倒的守勢のなか、ファイナルサードの攻防で自陣のニアゾーンを徹底的にカバー
Semi Finalのシティ戦、レアルは圧倒的に押し込まれ守勢を強いられる。自陣ペナルティエリアの手前に守備ブロックを敷き、シティの猛攻を耐え凌ぐレアル。
シティは守りを固める対戦相手に対してニアゾーン([システム図④]黄色のエリア)を取る事で敵の守備網を崩しにかかる。
[システム図④]
ニアゾーン
この試合でもシティはレアル陣のニアゾーンを執拗に狙う。
シティに押し込まれ自陣の深いエリアに守備ブロックを敷く事を強いられたレアル。
レアルの自陣に於ける基本の守備陣形は4‐4‐2。シティのニアゾーンを狙う動きに対してはカマビンガ、クロースの両ボランチが最終ラインまで下がる事で対応する。
自陣深くにブロックを敷く際の守備陣形
基本陣形はは4‐4‐2。シティ攻撃陣がニアゾーンを狙って来れば⑫カマビンガ、⑧クロースの両ボランチが最終ラインまで下がって対応。
この守備対応は、ボランチが最終ラインまで下りる事でサイドバックとセンターバック間のスペースを埋め、更にその裏のスペースをカバーする事が出来る。
その反面、陣形が後ろ重心になってしまう。シティの攻撃を防いでも前方の人数が足りず、前進する事が難しい。その結果クリアボールをシティに拾われ続け、一方的にシティに押し込まれ続けてしまうというデメリットがある。
レアルはシティに対してボールを支配する為の戦いを挑んでも勝ち目がない事を自覚し、押し込まれ続ける事を覚悟した上でこの守備戦術を選択。その戦い方を延長戦も含めてやり切ったのだった。
ボランチがニアゾーンをプロテクトするディフェンス
シティのニアゾーンへの侵入に対するクロースの守備対応
シティは、最前線でセンターフォワードがレアルのセンターバック(㉒リュディガー、⑥ナチョ フェルナンデス)をピン留。そこからサイドとハーフスペースの選手でトライアングルを形成し、トライアングルを活用したコンビネーションプレーでニアゾーンのスペースを取りに行く。
その瞬間⑧クロースが素早く反応。ニアゾーンへ駆けつけこのエリアへ侵入しようとするシティの選手の動きを封じにかかる。
Semi Final 対 バイエルン・ミュンヘン 戦 1st leg
メンバー及び、試合開始時のシステム
バイエルン・ミュンヘン
監督 トーマス トゥヘル
【交代】
1 | マヌエル ノイアー (GK) |
3 | キム ミンジェ |
6 | ヨシュア キミッヒ |
8 | レオン ゴレツカ |
9 | ハリー ケイン |
10 | レロイ ザネ |
15 | エリック ダイアー |
25 | トマス ミュラー |
27 | コンラート ライマー |
40 | ヌサイ マズラウィ |
42 | ジャマル ムシアラ |
【交代】
22 | ラファエウ ゲレイロ (ハーフタイムIn) |
➡ゴレツカ Out | |
7 | セルジュ ニャブリ (80分In) |
➡ミュラー Out | |
19 | アルフォン ソデイビス (87分In) |
➡ザネ Out |
レアル・マドリード
監督 カルロ アンチェロッティ
【交代】
13 | アンドリー ルニン (GK) |
5 | ジュード ベリンガム |
6 | ナチョ フェルナンデス |
7 | ビニシウス ジュニオール |
8 | トニ クロース |
11 | ロドリゴ |
15 | フェデリコ バルベルデ |
17 | ルーカス バスケス |
18 | オウレリアン チュアメニ |
22 | アントニオ リュディガー |
23 | フェルラン メンディ |
【交代】
12 | エドゥアルド カマビンガ (65分In) |
➡ナチョ フェルナンデス Out | |
10 | ルカ モドリッチ (76分In) |
➡ベリンガム Out | |
21 | ブラヒム ディアス (76分In) |
➡クロース Out | |
14 | ホセル (87分In) |
➡ロドリゴ Out |
左:バイエルン(白) 右:レアル(黒)
[システム図⑦]
試合開始時
[システム図⑧]
55分頃
バイエルンはハーフタイムに㉒ラファエウ ゲレイロを投入(ゴレツカOut)
試合(守備)のポイント
バイタルエリアで的確にマークを掴み、バイエルンの攻撃を封じにかかる
中盤のゴレツカやミュラー、ウイングのムシアラ、前線のケインと多くの選手が敵の中盤と最終ラインのライン間、所謂バイタルエリアに侵入。そこへ後方からボールを差し込む事でフィニッシュへと繋げる事がバイエルンの主要な攻撃となる。
対してレアルは、中盤から最終ラインの選手がバイタルリアにポジションを取るバイエルンの選手を的確につかんでマークする。バイエルン攻撃陣のオフザボールでの動きを確実に掴む事で早いタイミングでバイエルン攻撃陣の動きを封じにかかる。
レアルの守備陣形(前半)
バイエルンは黄色で示したエリアに攻撃陣が侵入。そこへ後方から縦パスを差し込む事で攻撃の拠点を作る
守備局面の早い段階からマークを掴む事で、バイエルンのバイタルエリアでのドリブルによる仕掛けに対して正面でしっかりと待ち受ける形で対応できていた。またゴール前へのフリーランニングに対しても遅れずについて行き、ゴール前でバイエルンの選手をフリーにさせなかった。
レアル、自陣バイタルエリアでのマークの掴み
バイタルエリアへ侵入してくるバイエルンの攻撃陣に対して中盤の⑱チュアメニや⑧クロース、最終ラインの⑥ナチョ フェルナンデスや㉓メンディが早い段階でマークを掴む。
CL決勝トーナメントに於けるレアルの守備 総括
相手の長所に対して強く対応するレアルの守備
対戦相手に応じて戦い方を変えるレアル。特にリアクション要素の強い守備の局面に於いては対戦相手毎の変化が顕著に表れていたように感じました。
そんなレアルの守備をラウンド毎にみていると
「対戦相手が持つ最大の長所に対して如何に対処するか」
という点を重視している事がわかります。
ライプツィヒはトランジションの攻防を制する事で試合を優位に進めようとしますが、レアルはこの局面で五分に渡り合う事でライプツィヒに試合の主導権を渡しませんでした。ニアゾーンを取る事で敵の守備網を崩壊させるシティに対しては、ニアゾーンへのカバーリングを徹底。バイタルエリアからの仕掛けで敵ディフェンダーを剥がしにかかるバイエルンに対しては、バイタルエリアで素早くマークを掴む事で対応します。
勿論、全てが上手くいったわけではありません。
例えばバイエルン戦(1st leg)の56分、クロースがミュラーに背中を取られてしまいます。キム ミンジェからのパスを受けたミュラーに攻撃を組み立てられてしまい、最終的にルーカス バスケスのPK献上へと繋がってしまいます。
このシーンは、強豪チームの長所を抑え込む事が如何に困難かを物語っていると感じました。
とはいえ対戦相手の長所に的を絞り重点的に抑えにかかる事で、敵の攻撃力を削る事には間違いなく成功しました。
その事が、一方的に押し込まれているように見える展開に於いてもぎりぎりの所で踏みとどまる事ができ、最終的には接戦を制する事ができた要因なのではないでしょうか。
レアルの守備面に於けるクロースの重要性
今回レアルの守備面をクローズアップしてみて、私自身が感じたのはトニ クロースの守備面における重要性でした。クロースと言えばパス回しの起点として攻撃面でチーム内に於いて大きな役割を担っていますが、守備面に於いても大きな役割を担っていると感じました。
上記した3試合、各々異なる守備戦術が機能したのはクロースが守備面での役割を全うした事が大きな要因ではないかと思います。
今夏のEURO2024を持って現役を引退するクロースですが、23‐24シーズンのCL決勝トーナメントを勝ち上がり、チームを優勝に導いた彼の活躍はMVP級の価値があったのではないでしょうか。
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