クープ・ドゥ・フランス、リーグ・アン、UEFAチャンピオンズリーグを制し、見事に3冠を達成した24‐25シーズンのパリ・サンジェルマン。
流動的に動き回る前線と中盤、そこにサイドバックが絡む攻撃はスペクタクルそのもの。
また、頻繁にポジションチェンジを繰り返すにもかかわらずチームとしてのバランスを保ち続ける組織力や、ドンナルンマを中心にピンチを凌ぐ守備時の集中力など多くのストロングポイントを有しており、シーズンが進むにつれてチームとしての完成度を高めていきました。
そんなパリ・サンジェルマンを攻守両面で牽引していたのが、ウスマン デンベレです。
チームを勝利に導くデンベレの献身的な働きと、チームの連動性
今季のデンベレはについて頻繁に語られるのは、敵のビルドアップに対する激しいチェイシングです。まるで獰猛な獣のような勢いで相手チームのセンターバックやゴールキーパーに襲い掛かる姿は、今季のデンベレを象徴するプレーと言えるでしょう。
それと同様に、チームがボールを保持している局面でデンベレが中盤や敵ライン間に下りて後方からのパスを引き出す為のオフザボールの動きも今季のデンベレを象徴しているのではないでしょうか。
今回のサッカー観戦記は、デンベレのオフザボールでのパスを引き出す動きが起点となりゴールが生まれたシーンを2つ取り上げます。
デンベレの動きと周囲の選手の動きが如何にして連動しているのか。更にそこからどのような展開でゴールが生まれたのかを見ていきます。
デンベレの動きによって生まれたゴール 2選
【その1】
UEFA CL Round of 16 2nd leg(2025年3月12日)
リヴァプールFC 対 パリ・サンジェルマン
[12分のゴールシーン]
【その2】
UEFA CL Semi Final 1st leg(2025年4月30日)
アーセナル 対 パリ・サンジェルマン
[4分のゴールシーン]
その1 対 リヴァプール戦
UEFA CL Round of 16 2nd leg(2025年3月12日)
リヴァプールFC 0-1 パリ・サンジェルマン
(2試合合計スコア 1-1)
延長戦 0-0
PK戦 1-4
【パリSGの勝利】
スターティングラインアップ
[システム図①]左:リヴァプール(赤) 右:パリSG(青)
12分のゴールシーン
デンベレのパスを引き出す動きが
先制ゴールへと繋がる攻撃のスイッチになる
この試合唯一のゴールが生まれたのは12分。左サイドバック、ヌノ メンデスからパスを受けたデンベレが前を向いてボールを前方に運んだ事が攻撃のスイッチとなりました。
ヌノ メンデスのパスはリヴァプールのプレッシャーライン2本を一気に超えるものでした。このパスを通す為に、中盤と連動したデンベレのオフザボールでの動きを以下のMEMOでみていきます。
【リヴァプールの前線と中盤のラインを、1本のパスで超える】
リヴァプールのDFラインから蹴り出されたロングボールを自陣で受けたパリSG。下図のように前線からマークを掴みに来るリヴァプールに対して、パリSGの中盤と最終ラインの選手は素早くパスを繋ぎ、ボールは(51)パチョから左サイドバックの㉕ヌノ メンデスへ。
この間に⑰ビチーニャは前線付近にポジショニングすることでマッチアップする⑧ショボスライを中盤からリヴァプールのDFライン方向へと引っ張り出すと、ヌノ メンデスの前方にはバイタルエリアに通じるパスコースが出現。ここで⑩デンベレがすかさずパスコースに顔を出すと、ヌノ メンデスはデンベレへパス。このパスでリヴァプールの前線と中盤のラインを越えると、パスを受けたデンベレは素早く前を向く。
この瞬間が攻撃のスイッチとなりパリSGは前進モード、リヴァプールは後退モードとなる。
デンベレはすかさずドリブルでボールを前方へ運ぶ。
[システム図②]


ビチーニャのポジショニングによってバイタルエリアへのパスコースが開かれると、デンベレは直ちにパスコースへ顔を出してヌノメンデスのパスを引き出した
このデンベレのオフザボールでのパスを引き出す動きが先制ゴールに繋がった
オフザボールでの的確な動きでゴール前へと侵入するデンベレ
デンベレが前を向きボールを前方へと運ぶことでパリSGに攻撃のスイッチが入る。
最終的にデンベレ自らがゴールを決めるが、ヌノ メンデスからのパスを受けたデンベレが右サイドにパスを捌いた後に、リヴァプールのゴール前へと入って行く動きも素晴らしいものがあったので、併せてみていきます。
【的確なチェンジオブペースでマッチアップマンのマークを外す】
前進モードのパリSG。リヴァプールのディフェンスライン右脇を㉙バルコラ、左脇を⑰ビチーニャが縦方向へフリーランニング。
ボールを運ぶ⑩デンベレは右サイドを走り込むバルコラへパスを出すと、パスアンドムーブでリヴァプールゴールへ向けて走り込む。リヴァプールは⑤コナテがデンベレに対応する。
バルコラがデンベレからのパスを受けるとコナテの視線がバルコラへと向く。その瞬間デンベレは一気にスピードアップ。コナテのマークから外れ背後からリヴァプールのゴール前へと入って行く。
[システム図③]

この図の後、バルコラはグラウンダーのクロスをリヴァプールのゴール前へ送る。
このクロスをコナテはスライディングでカットするが、こぼれ球に対してコナテのマークから外れフリーとなっていたデンベレが反応、ボールをリヴァプールゴールへと押し込む。

デンベレはフリーランニング中のチェンジオブペースでコナテの背後を取った
コナテのマークから外れ自由の身になったからこそ、こぼれ球に真っ先に反応できたのではないだろうか…
その2 対 アーセナル戦
UEFA CL Semi Final 1st leg(2025年4月30日)
アーセナル 0-1 パリ・サンジェルマン
スターティングラインアップ
[システム図④]左:アーセナル(白赤) 右:パリSG(青)
4分のゴールシーン
バイタルエリアに生じたスペースへ顔を出し
後方からのパスを引き出すデンベレ
リヴァプール戦と同様に、アーセナル戦でもデンベレのバイタルエリアでのパスを引き出す動きが攻撃のスイッチとなりゴールが生まれる。
中盤の動きと連動したオフザボールの動きにより、アーセナルの2本のラインを一気に超えるパスを引き出したデンベレの動きを、以下のMEMOで見ていきたいと思います。
【1本のパスで攻撃のスイッチをいれ、一気にアーセナルゴールへと迫る】
最終ラインを左方向へとパスを繋ぐパリSG。アーセナルの前線は数的同数でマークを掴む。
(51)パチョから㉕ヌノ メンデスにパスが通ると⑰ビチーニャはパスを受けに下がる事でマッチアップする㉓ミケル メリーノをバイタルエリアから遠ざけ、アーセナルの中盤の背後にスペースを作る。
このスペースへ⑩デンベレがすかさず下りて行くと、ヌノ メンデスはデンベレへパス。
ヌノ メンデスからデンベレへのパスはアーセナルの前線と中盤のラインを一気に超え、パリSGにとって攻撃のスイッチになる。
[システム図⑤]

ヌノ メンデスからデンベレへパスが通った時、⑧ファビアンはマッチアップする㉓ミケル メリーノを引き連れて左サイドへ流れる。
この動きが次の展開への布石になる。

パリSGの中盤は最終ラインでボールが回っている時、自分達がボールを貰いに行く動きをしつつ、バイタルエリアへのパスコースを作っている
パスコースができた瞬間にデンベレはパスコースに顔を出している
ファビアンが中央方向へ動く事により
左サイドにスペースが生まれる
最終ラインからのパスをデンベレが前を向きながら受けた事で、パリSGに攻撃のスイッチが入る。
ドリブルで前進するデンベレと、その周囲でゴールを奪う為の動きをみせるパリSGの選手達。
以下のMEMOでアーセナルゴールへと迫るパリSGの前進局面での連携をみてみます。
【スペースを生み出すファビアンのダイアゴナルラン】
バイタルエリアに生じたスペースへ侵入し、フリーでボールを受けた⑩デンベレ。後方から来たボールをアーセナルゴール方向を向いてトラップすると、すかさずドリブルで前進。後退モードのアーセナルは⑪マルティネッリと㊶ライスがデンベレに対応する。
左サイドへ流れていた⑧ファビアンは、ここで⑦クバラツケリアにマッチアップする⑫ティンベルの目の前で中央方向へと方向転換しダイアゴナルラン。ファビアンの動きによりティンベルは中央方向へと引っ張られ、左サイドのクバラツケリアの前方には広大なスペースが生じる。
クバラツケリアはフリーランニングで目の前のスペースを突くと、デンベレも左サイドのスペースへスルーパスを出す。
[システム図⑥]

この図の後、左サイドの深い位置でデンベレからのパスを受けたクバラツケリアは、ゴール前へマイナスのクロスを送る。
このクロスにゴール前に入って来たデンベレが左足でのダイレクトシュートを放ち、ゴールを決める。

ファビアンが中央方向へと動く事によって生じた、左サイドのスペースを活用した攻撃
素早い縦攻撃の中にも、チームの連動性がみられる
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