今夏、新たなフォーマットで開催されたFIFAクラブワールドカップ。
大会の規模が大幅に拡大し、各大陸を代表する32チームが世界王者の座をかけて鎬を削りました。
多くの話題が提供された今大会。その話題のひとつがブラジル勢の大健闘でした。コンディション面で苦労する欧州勢を尻目に、ブラジル勢はグループステージから存在感を発揮。
決勝トーナメントに入ると欧州勢が優位になっていきましたが、大会序盤の主役はブラジル勢と言ってもよいのではないでしょうか。
そんなブラジル勢の中で最高の成績を収めたのが、準決勝進出を果たしたフルミネンセ。
今回はクラブワールドカップでみせたフルミネンセのプレーをみていきます。
快進撃をみせたフルミネンセ
今大会のフルミネンセを観て私自身が最も印象に残ったのは
●攻撃のスイッチが入った瞬間、チーム全体が前掛かりになって縦方向へと動き出す時の迫力
という点です。
この特徴がよく表れていたシーンとして、決勝トーナメント1回戦のインテル戦からふたつのオフェンスシーン取り上げたいと思います。
また、フルミネンセの選手個人に目を向けた時、私自身は中盤のエルクルス選手のプレーが最も印象に残りました。
決勝トーナメントで途中出場から2試合連続でゴールを挙げたエルクルスのプレーも、併せて取り上げたいと思います。
フルミネンセのオフェンスシーン R16 インテル戦より
FIFA CWC Round of 16(2025年7月1日)
インテル 0-2 フルミネンセFC
スターティングラインアップ
[システム図①]左:インテル(青黒) 右:フルミネンセ(白)
3分のゴールシーン
チーム全体が縦方向へと動き出すフルミネンセの攻撃
フルミネンセの攻撃のスイッチは以下の4点。
・ポジティブトランジションで前方にオープンスペースがある時
・狭い局面の攻防で敵のプレスを突破した時
・後方でのパス回しで敵のプレッシャーラインを突破し、ライン間に侵入した時
上記の状況になった瞬間、フルミネンセはチーム全体が前掛かりになります。ボールホルダーは相手ゴールや前方のスーペースに向かってボールを運び、オフ・ザ・ボールの選手達は一気呵成に縦方向へと走り出します。
UEFAチャンピオンズリーグのファイナリストを見事に撃破した決勝トーナメント1回戦のインテル戦でも鋭く迫力のある縦攻撃をみせていました。
まずは開始直後の3分、先制ゴールを挙げたシーンを以下のMEMOでみていきます。
【数的不利の状況での突破から、一気にインテルゴールを目指す】
最終ラインでパスを回すフルミネンセは右サイドに流れて来たボランチの⑧マルティネッリにボールを渡すと右ウイングバックの②サムエル シャビエル、アタッカーの㉑アリアスでトライアングルを形成。右サイドで3対3の状況。
[システム図②]

フルミネンセのトライアングルはパスアンドムーブとダイレクトパスを駆使してインテルの(95)バストーニ、㉜ディマルコ、㉑アスラニの3枚を相手に突破を図る([システム図②]参照)。
アリアスが前方に落としたボールをパスアンドムーブでマルティネッリがボールを受ける直前、インテルは⑥デフライが前に出てカットしに行くが、カットしたボールをマルティネッリが再カット。ボールは前方にこぼれ、こぼれ球をアリアスが拾う。
結果的にフルミネンセのトライアングルはインテルの4枚の選手を剥がした事になり、ここで攻撃のスイッチが入る([システム図③]参照)。
右ハーフスペースと中央の2レーンからインテルのゴール前に向かって走り込むフルミネンセの選手達と、必死に戻るインテル守備陣。右サイドを3対4の数的不利の状況で突破した事により、右ハーフスペースと中央の2レーンでは4対3の数的有利の状態になる。
[システム図③]

上の図の後、ドリブルで右サイド深く侵入したアリアス。
そのアリアスがクロスを上げる瞬間が[システム図④]の状態。ペナルティエリア内は4対3、ゴール前は3対2と完全にフルミネンセが数的有利になっている。
更に⑭カノはインテルのセンターバック間にポジションを取っている。
[システム図④]

アリアスのクロスは守備対応に来たバストーニに当たり、フワッとした浮き球になってゴール前へ。
このボールをカノがヘッドで押し込みゴール。
右サイドを数的不利の状態で突破した事、そしてその瞬間にチーム全体が素早く縦方向へと動き出した事でゴール前で数的有利の状態を作り出し、このゴールがうまれた。

ゴールに繋がるクロスがディフレクションによってフワッとしたボールになった事で、一見ラッキーゴールのように見えるが
ゴール前で数的有利の状態を作る攻撃の流れや、ゴールを決めたカノのセンターバック間を取るポジショニング等をみると、非常に理にかなった攻撃をしている
このゴールは決してラッキーゴールなどではなく、必然的なゴールだと感じた
30分のフィニッシュシーン
こぼれ球の攻防を制すると
オフ・ザ・ボールの選手達が一気に縦方向へと動き出す
続いても決勝トーナメント1回戦のインテル戦から、30分のフィニッシュシーンを取り上げます。
スローイン後のこぼれ球をフルミネンセが拾うと、ここでもオフ・ザ・ボールの選手達は一気にインテルゴールに向けて動き出し決定機を作り出します。惜しくもゴールとはなりませんでしたが、迫力のある攻撃をみせました。
その攻撃を、以下のMEMOでみていきます。
【チーム全体の的確なオフ・ザ・ボールの動きによって決定機を作る】
敵陣左サイド、インテルのスローイン後のこぼれ球を拾った㉑アリアスはダイレクトのバックヒールパス。このパスを⑭カノが収めた事が攻撃のスイッチとなり、チーム全体がインテルゴールに向けて動き出す。
ボールを収めたカノにインテルの㉒ムヒタリアンと(95)バストーニが引き付けられると、ムヒタリアンの背後に生じたスペースへアリアスがパスアンドムーブで走り込む。
その後方からは⑧マルティネッリが前線の選手達を追い越してインテルゴールに向けて走り込み、更に後方からは②サムエル シャビエルがインテルゴールに向けて走り込む。
カノはアリアスにリターンパスを送ると、パスを受けたアリアスはシュートを放つ。
[システム図⑤]

アリアスのシュートはゴールキーパーにセーブされるが、長駆走り込んで来たサムエル シャビエルがこぼれ球に真っ先に追いつきシュート。このシュートは枠を外す。
結局得点にはならなかったが、カノがボールを収めた瞬間の各選手達の素早い動き出しによりフルミネンセは速さと迫力を兼ね備えた攻撃をみせた。

フルミネンセの選手達は攻撃のスイッチが入った瞬間の動き出しの速さは勿論の事、オフ・ザ・ボールの選手各々の動きに明確に意味がある
その事が縦攻撃に迫力を生んでいる
最も印象に残った選手 ㉟エルクルス
決勝トーナメントで2試合連続ゴール
ゴールに繋がる鋭い動きをみせる
クラブワールドカップ準決勝進出を果たしたフルミネンセ。選手個人に目を向けても、キャプテンのチアゴ シウバ、ディフェンダーのイグナシオ、アタッカーのジョン アリアス等々、多くの選手が印象的な活躍をしました。
その中で私が最も印象に残っているのが、中盤のエルクルスです。
エルクルスは大会開幕時はスタメンでしたが、その後ベンチへと降格してしまいます。しかし決勝トーナメントに入ると、途中出場から2試合連続でゴールを挙げる大活躍をみせます。
決勝トーナメントの二つのゴール、その過程でみせた彼の動きはゴールを奪うセンスを感じさせるものでした。
ここでは2試合連続ゴールの2試合目、準々決勝の対アル・ヒラル戦のゴールをみていきます。
FIFA CWC Quarter Final(2025年7月5日)
フルミネンセFC 2-1 アル・ヒラルFC
スターティングラインアップ
[システム図⑥]左:フルミネンセ(臙脂・緑) 右:アル・ヒラル(白)
※㉟エルクルスはハーフタイムから⑧マルティネッリに代わって出場
エルクルス、70分のゴールシーン
1対1の同点で迎えた70分の場面。
相手陣内でボールを失ったフルミネンセはカウンタープレスを敢行。エルクルスが相手フォワードからボールを奪い返すとミドルシュートを放ちます。
このシュートは相手ディフェンダーにブロックされるも、ここから彼が行ったオフ・ザ・ボールの動きは得点感覚に溢れるものでした。
その動きは如何なるものだったのか、以下のMEMOでみていきます。
【瞬間的に生じた隙を的確に突くフリーランニング】
㉟エルクルスが放ったミドルシュートは⑧ルベン ネベスがブロック、ボールは高く舞い上がります。
下の[システム図⑦]はシュートブロック後、②サムエル シャビエルと㉔アルハルビがハイボールの落下点に入って来て競り合う場面。この時アル・ヒラルのDF、⑥レナン ロディがボール方向へと寄って行きます。
エルクルスはこのレナン ロディの動きにすかさず反応。レナン ロディが動いた事によって生じたスペースへと走り込むと、アルハルビとのヘディングの競り合いに競り勝ったサムエル シャビエルがエルクルスへとボールを送ります。
エルクルスはレナン ロディの背後でフリーの状態でボールを受けるとアル・ヒラルゴールへと向かいます。
[システム図⑦]

この図の後、アル・ヒラルはルベン ネベスが慌ててカバーリングに行くも時すでに遅し。
エルクルスは右足でアル・ヒラルゴールへボールを流し込みます。

エルクルスがみせたレナン ロディの脇のスペースを突く動きは秀逸だった
評論家や解説者の方々はエルクルスについて
中盤で守備的な役割を担う選手と説明されていましたが、決勝トーナメントでの2ゴールをみると、得点感覚も非常に優れていると私自身は感じた
コメント