W杯観戦記 FIFAワールドカップ カタール 2022 準々決勝 編

欧州サッカー 22-23シーズン 個人表彰 FIFAワールドカップ

ワールドカップ カタール大会 準々決勝
激戦を勝ち抜いた8チームによる対戦は、いずれもこの舞台にふさわしい激闘でした
今回のサッカー観戦記は準々決勝4試合をレビューします

準々決勝の結果

2022年12月10日
クロアチア代表 1(4PK2)1 ブラジル代表

2022年12月10日
オランダ代表 2(3PK4)2 アルゼンチン代表

2022年12月11日
モロッコ代表 1-0 ポルトガル代表

2022年12月11日
イングラド代表 1-2 フランス代表

試合のレビュー

クロアチア 1(4PK2)1 ブラジル

一進一退の攻防は延長戦でも決着つかず、PK戦の末クロアチアが王国を撃破

クロアチアはビルドアップ時、右サイドバックのユラノビッチが高いポジションを取りビルドアップからボールが前に進めば盛んに攻め上がる。これはビニシウスの背後を突く事で、ビニシウスの攻撃力を削る意図があったと思われる。
このユラノビッチの動きにビニシウスは本来の力を発揮できず、ブラジルは大きな武器である左サイドからの攻撃の機能性を失う。とは言えブラジルは中央からの攻撃も強力で時間の経過とともに中央からの攻撃を中心に据えるようシフト。更に後半途中出場のアントニーが右サイドから積極果敢に仕掛け、クロアチアゴールへと迫る。
対するクロアチアもブラジルのフォアプレスをモドリッチ、コバチッチの両インテリオールがサイドバックとのパス交換で剥がすと一気に前進しブラジル陣内へと侵入する。
クロアチアはユラノビッチが高いポジションを取る事もありフィールド右側からの前進が比較的多く、そこから早いタイミングでクロスを上げるか、サイドチェンジしてペリシッチが仕掛けるというパターンが多くみられた。

試合は一進一退、スコアレスのまま90分では決着がつかず延長戦に突入する。
ゴールキーパーのリバコビッチを中心に必死の守備をみせるクロアチア。固く閉ざされたクロアチアのゴールを延長前半のアディショナルタイム、ついにネイマールがこじ開ける。
フィールド中央でボールを受けたネイマールはロドリゴとのワンツーパスでクロアチアの守備ブロックに向けて前進すると、更に前線に陣取ったパケタとのワンツーパスでクロアチアのディフェンスラインを突破。最後はリバコビッチをかわしてシュートを放ち待望の先制ゴールを挙げる。
延長戦でビハインドを背負ったクロアチア。万事休すと思われたが驚異的な粘りをみせる。試合終了間際の117分、自陣左ハーフスペースでボールをキープしたモドリッチを起点に左サイドをブラシッチとオルシッチがボールを運びアタッキングサードに侵入するとオルシッチはグラウンダーのクロス。このクロスを、ここまでブラジル守備陣に抑え込まれていたペトコビッチが左足で合わせ値千金の同点ゴールを挙げる。

延長戦でも決着がつかず、勝負の行方はPK戦へ。
前戦の日本とのPK戦で素晴らしいセーブをみせたリバコビッチが、ブラジルに対しても壁として立ち塞がり、1人目ロドリゴのシュートを止める。
クロアチアのキッカーは1人目から4人目まで連続で決め、ブラジルもカゼミーロとペドロが連続で決める。
しかしブラジルの4人目マルキーニョスがシュートを外して勝負あり。
クロアチアが2大会連続でベスト4進出となった。

【投稿主選出の man of the match】 ドミニク リバコビッチ

オランダ 2(3PK4)2 アルゼンチン

合計18枚ものイエローカードが提示される大荒れの試合を、アルゼンチンがPK戦の末に制する

アルゼンチンはこの試合、3-5-2のシステムを採用(オランダは3-4-1-2)。アルゼンチンの狙いはオランダの攻撃を牽引していたドゥンフリーズ、ブリントの両ウイングバックに対して、モリーナとマルコス アクーニャをマッチアップさせて封じる事。
この狙いは見事に嵌る。モリーナとマルコス アクーニャはオランダの両ウイングバックと対峙し、攻守両面でマッチアップを制する。それに伴いオランダの攻撃は停滞する。
更にオランダを悩ませたのはボールを受けに中盤まで下がるメッシの動き。オランダのディフェンスはマンオリエンテッドにマークを掴む事が基本方針。メッシとマッチアップするアケはメッシの動きに対してどこまでついて行くのかという選択を強いる事になる。
勿論オランダもメッシ対策は講じており、アケが前に釣り出されても残りのセンターバック2枚と両ウイングバックが4バックのディフェンスラインを形成しゴールを守る形を採る。
しかしメッシを中心とするアルゼンチンの攻撃はオランダの対策を上回る威力を持っていた。
35分、右サイドでモリーナがボールを持ち上がる。オランダはモリーナに対してアケが守備対応。モリーナはメッシにボールを渡し自らはパスアンドムーブでディフェンスラインの裏を突く。オランダはアケがメッシにつきモリーナのマークはブリントに受け渡すとともに4バックを形成し守備網を整えるが、メッシはオランダの守備網を切り裂くスルーパスを送り、パスを受けたモリーナもゴール前にボールを向けるトラップで一気に抜け出すとゴールキーパーのノペルトの足元を抜くシュートをゴールネットに突き刺しアルゼンチンが先制点を挙げる。

[システム図①]アルゼンチンの先制点
オランダは⑤アケが守備対応で前に出ると㉒ドゥンフリーズ、④ファンダイク、②ティンベル、⑰ブリントの4人で4バックを形成。
攻めるアルゼンチンは⑩メッシにボールを渡した㉖モリーナがパスアンドムーブでディフェンスラインの裏を突くとメッシは絶妙なスルーパスを通す。

リードを奪われ攻撃も停滞するオランダはハーフタイムに選手交代。デローンとベルフワインを下げてベルフハウスとコープマイネルスを投入する。攻撃の戦術も前半は前線のベルフワインがパスを受けに下がりトップ下のガクポが前線に上がるといった前線で流動的な動きをしていたが、後半は中盤のコープマイネルス、デヨング、ベルフハウスが流動的に動き、前線にボールを提供する戦術に変更される。
ただ、この選手交代と戦術変更は戦況を大きく好転させるには至らない。すると65分、ブリントを下げて長身フォワードのルーク デヨングを投入。システムも4-2-3-1に変更しデパイをトップ下に配置する。
しかしこの変更も、アルゼンチンがレアンドロ パレデスがデパイをマンマーク気味につくなどの対応によりオランダにとっては効果が薄く、更にドゥンフリーズがドリブルで攻めあっがてきたマルコス アクーニャをエリア内で倒してしまいPKを献上。このPKをメッシが決めてアルゼンチンはリードを2点に広げる。
なりふりを構ってはいられないオランダは78分、デパイに代えてベグホルストを投入。前線にベグホルスト、ルーク デヨングと長身フォワードを2枚並べる4-4-2システムで、ゴール前にハイボールを放り込んでくる。すると83分、ベルフハウスのクロスをベグホルストがヘディングでアルゼンチンゴールに叩き込みオランダは1点を返す。
同点に追いつくべく攻めるオランダ、リードを守るアルゼンチン。両チームの攻防が激しさを増すなか、88分にレアンドロ パレデスがオランダベンチに向けてボールを蹴り込むという危険行為が発生。この試合、レアンドロ パレデスの行為が行われる前から両チームの間には挑発行為や小競り合いが頻発。かなり不穏な空気が漂っていた。その中でのレアンドロ パレデスの危険行為(直前のアケに対するタックルも危険なものだった)により両チームの選手の怒りが爆発。乱闘寸前の騒乱状態に発展し、大荒れの試合となってしまう。
なんとか騒動は収まるも、不穏な空気は残ったまま試合は再開。そして試合終了直前、まさかのプレーが飛び出す。
後半のアディショナルタイムが10分以上経過した所でオランダはアルゼンチン陣内、ペナルティーアークのすぐ後方という絶好の位置でフリーキックを得る。オランダのキッカー、コープマイネルスはアルゼンチンの壁の横に立つ味方選手にパスを出すという、驚愕のトリックプレーを敢行。このパスを受けたベグホルストは振り向きざまに左足を振り抜くと、ボールはアルゼンチンゴールへ。試合終了間際、オランダが同点に追いつき試合は延長戦に突入する。

延長戦に入りボールを支配したのはアルゼンチン。しかし、オランダの4-4の守備ブロック内になかなか侵入する事ができない。
守備では4-4-2システムが機能するオランダ。しかし攻撃に於いては、ハイボールを放り込む事は出来ても、パスを繋いでボールを運ぶことには苦労してしまう。
膠着状態が続く延長戦。状況を打破する為にアルゼンチンは112分にディマリアを投入し、システムも変形の4-3-3に変更する。するとアルゼンチンは延長戦の最終盤にチャンスを作りオランダゴールに迫る。しかし試合を決めるゴールを奪う事は出来ず、決着はPK戦に委ねらっれる事になる。
PK戦でも挑発行為が行われ不穏な空気は最後まで拭われる事はなかったが、アルゼンチンのゴールキーパー、エミリアーノ マルティネスがファンダイクとベルフハウスのシュートを止める活躍で3対4。アルゼンチンが史上稀にみる死闘を制し準決勝進出を果たした。

【投稿主選出の man of the match】 ナウエル モリーナ

モロッコ 1-0 ポルトガル

モロッコがスペインに続きポルトガルも撃破、アフリカ勢初のベスト4進出の快挙

モロッコが1回戦のスペイン戦に続きこのポルトガル戦でも堅い守備を披露する。
ポルトガルが前進し縦にボールを差し込めばインテリオールのウナヒ、アマラーが激しくプレス。中盤を突破されてもアンカーのアムラバトがライン間のフィルターとして広範囲に動いてボールハント。サイドを攻められてもジェシュ、ブファルの両ウイングが自陣に戻ってカバーと、ここまで勝ち抜いてきた守備をこの試合でもみせる(モロッコの守備についてはこちらの「決勝T1回戦編」でも図解入りで説明しているので、もしよろしければご覧下さい)。
モロッコは守備だけではなく攻撃でも積極的な姿勢をみせる。
自陣でポルトガルからプレスを受けてもサイドにボールを繋ぐと、サイドバックとインテリオールが連携してプレスを剥がす。プレスを剥がしてボールホルダーが前を向けば複数の選手が縦方向に動き出しポルトガルゴールへと向かう。
モロッコの攻撃の特徴としてプレスを受けても同サイドからパスを繋いで前進し、プレスを剥がせば同サイドだけではなく逆サイドにも展開する。42分の先制ゴールはモロッコの攻撃の特徴がしっかりと発揮されたものだった。

[システム図②-(1)]42分モロッコの先制ゴール
ディフェンスラインまで下がった④アムラバトから中盤の⑧ウナヒに縦パスが入る。
ウナヒはドリブルと⑦ジェシュへのパスでポルトガル④ルベン ディアス、㉕オタービオのディフェンスを回避すると、ジェシュは中央へのドリブルから左サイドの⑰ブファルへサイドチェンジ。

[システム図②-(2)]
サイドチェンジのパスを受けた⑰ブファルは左サイドでボールをキープすると⑧ウナヒとのパス交換でポルトガル㉕オタービオ、⑱ルベン ネベス、⑧ブルーノ フェルナンデスのプレスをかわしボールはタッチライン際の㉕アティアトアラーに渡る。

この図の後、アティアトアラーが上げたクロスを⑲エンネシリがヘディングで決める。

先制点を奪われたポルトガルは後半反撃に出る。
ネガティブトランジションで前半よりも強くボールホルダーに対して寄せて、積極的にカウンタープレスに行く。51分にはこの試合ベンチスタートだったクリスティアーノ ロナウドを投入。システムも試合開始時の4-1-2-3から4-2-3-1へ変更する。
ポルトガルの攻勢に対して局面ごとの攻防で後手を踏む事が増えたモロッコ。しかしディフェンスラインを中心に粘りの守備でポルトガルの攻撃を凌ぐと、65分ディフェンダーのバヌンを投入して5-4-1の5バックにシステムを変更し守りを固める。
ポルトガルは試合終盤、基本システムは4-2-3-1を維持しつつ攻撃時には後半途中出場のビチーニャをディフェンスラインまで下げて3-4-2-1に変化する可変システムでモロッコの守備ブロック攻略を図るが、モロッコ守備陣は最後までゴールを守り抜く。
そして虎の子の1点を守り切ったモロッコが強豪ポルトガルを下し、アフリカ勢初のベスト4進出という快挙を達成した。

【投稿主選出の man of the match】 ユセフ エンネシリ

イングラド 1-2 フランス

連覇を狙うフランスが苦しみながらも強敵イングランドを振り切る

イングランドはエンバペ対策を徹底する。直接マッチアップする右サイドバック、守備の怪物カイル ウォーカーに加え、エンバペがボールを持てば中盤のジョーダン ヘンダーソンやデクラン ライスがスライドし必ず複数の選手がエンバペを包囲する。
カイル ウォーカーがエンバペ対策によりポジションが下がる分、イングラドの攻撃はフィールドの左側から前進する事が多くなる。ルーク ショウ、ベリンガム、フォデンのトライアングルにケインが絡みフランスのディフェンスラインを崩しにかかる。
対するフランスはライン間のグリーズマン、前線のジルーへボールを差し込み、この2人からサイドへ展開する事でデンベレ、エンバペの両ウイングからの仕掛けをお膳立てする。また守備ではイングランドの左からの攻撃に対して右サイドバックのクンデが適切な対応で対抗する。
両チームがっぷり四つに組む展開のなか、17分フランスの伏兵チュアメニがミドルシュートをイングランドゴールに突き刺しフランスが先制点を挙げる。

先制されたイングランドは時間の経過とともにプレーの強度を上げていく。
そして52分、ベリンガムとのワンツーパスでフランスゴールへと迫るサカをチュアメニが倒しイングランドはPKを獲得する。このPKをケインが決めてイングランドは同点に追いつくと、更に勢いを増して行く。フランスはウイングが前残りする分、前線の守備の強度が低く、それがイングランドを勢いづかせる要因になっていた。
イングランドの勢いを前に思うように攻撃を組み立てられないフランス。一方的なイングランドペースになりそうな状況のなか、ジルーとグリーズマンの存在がフランスを救う事になる。多少ラフに出されたボールでも、この2人がボールを収め時間を作る事で試合の均衡は何とか保つ事ができていた。
そして78分、フランスはコーナーキック後の2次攻撃からグリーズマンのクロスをジルーが頭で合わせて待望の勝ち越しゴールを奪う。
再びビハインドを背負ったイングランドだが、失点から約2分後にマウントがペナルティエリア内でテオ エルナンデスに倒されたプレーがVARによりPKと判定される。この日2本目のPKを蹴る事になったケイン。しかしケインはこのPKをゴール上に外し再度同点とはならなかった。
そして試合は2対1で終了。フランスが苦しみながらもイングランドを退け連覇達成まであと2勝となった。

【投稿主選出の man of the match】 オリビエ ジルー

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