戦前の予想を覆し、グループステージ突破を果たした日本代表
今回のサッカー観戦記は、奇跡の勝利により今大会における日本の趨勢を決定づけたドイツ戦
ベスト8の壁に果敢に挑んだクロアチア戦の2試合をレビューします
日本代表 試合結果
2022年11月23日 (グループステージ 第1戦)
ドイツ代表 1-2 日本代表
2022年11月27日 (グループステージ 第2戦)
日本代表 0-1 コスタリカ代表
2022年12月2日 (グループステージ 第3戦)
日本代表 2-1 スペイン代表
2022年12月6日 (決勝トーナメント 1回戦)
日本代表 1(1PK3)1 クロアチア代表
試合のレビュー
対 ドイツ戦
メンバー・システム
ドイツ代表
監督 ハンジ フリック
【スタメン】
1 | マヌエル ノイアー (GK) |
2 | アントニオ ルディガー |
3 | ダビド ラウム |
6 | ヨシュア キミッヒ |
7 | カイ ハベルツ |
10 | セルジュ ニャブリ |
13 | トマス ミュラー |
14 | ジャマル ムシアラ |
15 | ニクラス ズーレ |
21 | イルカイ ギュンドアン |
23 | ニコ シュローターベック |
【交代】
8 | レオン ゴレツカ (67分In) |
➡ギュンドアン Out | |
18 | ヨナス ホフマン (67分In) |
➡ミュラー Out | |
9 | ニコラス フュルクルク (79分In) |
➡ハベルツ Out | |
11 | マリオ ゲッツェ (79分In) |
➡ムシアラ Out | |
26 | ユスファ ムココ (90分In) |
➡ニャブリ Out |
日本代表
監督 森保 一
【スタメン】
12 | 権田 修一 (GK) |
4 | 板倉 滉 |
5 | 長友 佑都 |
6 | 遠藤 航 |
11 | 久保 建英 |
14 | 伊東 純也 |
15 | 鎌田 大地 |
17 | 田中 碧 |
19 | 酒井 宏樹 |
22 | 吉田 麻也 |
25 | 前田 大然 |
【交代】
16 | 冨安 健洋 (ハーフタイムIn) |
➡久保 建英 Out | |
9 | 三苫 薫 (57分In) |
➡長友 佑都 Out | |
18 | 浅野 拓磨 (57分In) |
➡前田 大然 Out | |
8 | 堂安 律 (71分In) |
➡田中 碧 Out | |
10 | 南野 拓実 (74分In) |
➡酒井 宏樹 Out |
左:ドイツ代表(白) 右:日本代表(青)
[システム図①]試合開始時
レビュー
大胆なシステム変更が功を奏した日本、ドイツは選手交代が裏目に…
前半、ドイツが試合の主導権を握る。
ドイツはビルドアップ時に右サイドバックのズーレが最終ラインに残りセンターバックのルディガー、シュローターベックと並び、左サイドバックのラウムが上がる3バックへの可変システム。
日本の前線のプレスはワントップの前田とトップ下の鎌田の2枚なので、ドイツの最終ライン対日本の前線は3対2。ここに両チームのボランチを足すと5対4となり、ドイツはビルドアップ時の数的有利を確保する。
更にドイツはトップ下のミュラーがフィールド左側(日本からみて右側)に流れながらボールを引き取りに来る。このミュラーの動きに対して放送席解説(ABEMA)の本田圭佑氏は「ミュラーの動きにボランチの田中碧が引っ張られてしまう」と説明した通り、ドイツは日本の守備陣形をフィールド右側に寄せ左サイドのスペースをラウムが突くという攻撃で日本を押し込んで行く。
[システム図②]ドイツのビルドアップ(前半)
ビルドアップ時の最終ラインは右から⑮ズーレ、②ルディガー、㉓シュローターベックの3枚になる可変システムで、その前に⑥キミッヒ、㉑ギュンドアンが立つ。
対する日本、前線は㉕前田、⑮鎌田の2枚、中盤は⑥遠藤、⑰田中で対応。前線は3対2、ビルドアップ全体(点線内)でも5対4でドイツが数的有利の状況で攻撃に起点を作る。
更にミュラーは右サイドに下りる形でビルドアップからのボールを引き取りに来るので、日本の中盤はドイツからみて右のサイドに寄せられてしまう
そして33分、日本はゴールキーパー権田が痛恨のPK献上。このPKをギュンドアンが決めてドイツが先制点を奪う。
試合はその後もドイツペースのまま1対0、ドイツが1点をリードし前半が終了する。
試合内容では主導権を握られ、スコアも1点ビハインドとなった日本はハーフタイムに大胆な手を打つ。
選手交代で久保に代えて冨安を投入すると、システムも4-2-3-1から3-4-2-1へ変更。後半を3バックで戦うという選択をする。
[システム図③]後半開始時
日本は⑯冨安を投入し、システムも4-2-3-1から3-4-2-1へ変更
このシステムを変更は日本に2つの効果を生み出す。
1つ目は日本の前線の並びが1トップ・2シャドーになった事で、ドイツがビルドアップを行う際にドイツの最終ラインと日本の前線が3対3の数的同数になる。ここを起点に日本はドイツのビルドアップに対してマッチアップを嵌め込みドイツの攻撃に対して強く制限をかけられようになって行く。
[システム図④]ドイツのビルドアップに対する後半の日本の対応
日本は後半システムを3-4-2-1に変更。
ドイツのビルドアップ時、ドイツの最終ライン3枚に対して1トップ・2シャドーを当てる事で3対3の数的同数の状態を作る。ボランチも含めても5対5の数的同数となり、マッチアップを嵌め込む事ができるようになる。
2つ目の効果は、日本のウイングバックに対するマークが浮がちになった事が挙げられる。
ドイツは守備ブロックを組む際、センターフォワードとオフェンシブハーフの2枚(先発ではハベルツとミュラー)が前線にポジショニングし、その後方に4-4の2ラインを敷く。日本のウイングバックはドイツのサイドバックとサイドハーフの中間に位置する事になり、ドイツにとってはマークを掴みずらいポジションとなる。
日本はこの状況を生かすべく57分、左ウイングバックに三苫を投入。更に71分には2シャドーの一角、伊東を右ウイングバックにポジションチェンジ。突破力、推進力のある選手をウイングバックのポジションに入れる。
ドイツの攻撃に対して前からプレスを嵌める事で制限をかけ、フリーになりがちなウイングバックを中心にサイドからドイツを押し込みにかかる日本。そして67分、日本にとって更なる追い風が吹く。1点をリードするドイツは選手交代でミュラーとギュンドアンを下げてしまう(ゴレツカとホフマンを投入)。絶妙なポジショニングで後方からのパスを引き出し日本の守備を悩ませていた2人がベンチに下がった事でドイツの優位性は低下し、相対的に日本の優位性が増す事になる。
試合の流れを掴んだ日本は75分、三苫のドリブルからチャンスを作ると堂安が決めて同点に追いつく。更に83分、日本陣内でのフリーキック。ズーレのポジショニングが下がった事により生じたドイツディフェンスラインの乱れを日本が突く。板倉がドイツディフェンスラインの裏に蹴り込んだロングボールに浅野がディフェンスラインのギャップを突いて飛び出すと渾身のシュートをドイツゴールに突き刺す。
浅野のゴールが決勝点となり2対1。日本は戦前の予想を大きく覆しドイツ相手に歴史的な大勝利を挙げる。
日本勝利のポイントは3つ
後半のシステム変更により、ドイツのビルドアップに対してマッチアップを噛み合わせ、ドイツの攻撃の起点に制限をかける事ができた。
後半のシステム変更によりドイツはサイドのマッチアップが噛み合わなくなり、日本のウイングバックが浮がちになる。日本はそこを生かしてサイドから攻撃を仕掛けた。
日本を苦しめていたギュンドアン、ミュラーが早い時間帯にベンチに下がった。
【投稿主選出の man of the match】 権田 修一
対 クロアチア戦
メンバー・システム
日本代表
監督 森保 一
【スタメン】
12 | 権田 修一 (GK) |
3 | 谷口 彰悟 |
5 | 長友 佑都 |
6 | 遠藤 航 |
8 | 堂安 律 |
13 | 守田 英正 |
14 | 伊東 純也 |
15 | 鎌田 大地 |
16 | 冨安 健洋 |
22 | 吉田 麻也 |
25 | 前田 大然 |
【交代】
9 | 三苫 薫 (64分In) |
➡長友 佑都 Out | |
18 | 浅野 拓磨 (64分In) |
➡前田 大然 Out | |
19 | 酒井 宏樹 (75分In) |
➡鎌田 大地 Out | |
10 | 南野 拓実 (87分In) |
➡堂安 律 Out | |
17 | 田中 碧 (延長戦HT In) |
➡守田 英正 Out |
クロアチア代表
監督 ズラトコ ダリッチ
【スタメン】
1 | ドミニク リバコビッチ (GK) |
3 | ボルナ バリシッチ |
4 | イバン ペリシッチ |
6 | デヤン ロブレン |
8 | マテオ コバチッチ |
9 | アンドレイ クラマリッチ |
10 | ルカ モドリッチ |
11 | マルセロ ブロゾビッチ |
16 | ブルーノ ペトコビッチ |
20 | ヨシュコ グバルディオル |
22 | ヨシプ ユラノビッチ |
【交代】
17 | アンテ ブディミル (62分In) |
➡ペトコビッチ Out | |
15 | マリオ パシャリッチ (68分In) |
➡クラマリッチ Out | |
7 | ロブロ マィエル (99分In) |
➡モドリッチ Out | |
13 | ニコラ ブラシッチ (99分In) |
➡コバチッチ Out | |
14 | マルコ リバヤ (延長戦HT In) |
➡ペリシッチ Out | |
18 | ミスラフ オルシッチ (延長戦HT In) |
➡ブディミル Out |
左:日本代表(青) 右:クロアチア代表(白赤)
[システム図⑤]試合開始時
レビュー
のらりくらりと戦うクロアチア、勝てそうで勝てない日本
強豪、スペインとドイツを抑えグループEを首位通過した日本。決勝トーナメント1回戦の相手はクロアチア。
この試合、日本のスタートシステムは初戦のドイツ戦後半やスペイン戦で採用し好結果をもたらしている3-4-2-1。
対するクロアチアは先発フォワードにペトコビッチを起用。ゴール前の高さを活用しようという考えがみえる。
前半立ち上がり日本はクロアチアの後方でのパス回しに対してクロアチア陣内から前に出てプレスに行く。トランジションの攻防でも、日本はボールを奪えばウイングバックの攻め上がりを使いながら縦に攻める姿勢をみせる。
積極的な姿勢をみせる日本に対してクロアチアはディフェンスラインから中盤の選手の個々の技術力で日本のプレスを回避すると、前線や日本のディフェンスライン裏のスペースにロングボールを放り込む。クロアチアは日本の前に出る圧力をいなしつつ、自分たちのストロングポイントを生かした攻撃を仕掛けてくる。
またトランジション局面でもクロアチアは日本の縦に出る動きに対して、強く抑え込みには来ないものの中盤のスライド等で日本のサイド攻撃の威力をジワリと削るような対応をしてくる。
クロアチアは巧みな立ち回りで試合の流れをコントロール。時間の経過とともに日本を押し込んで行き、前線での高さを生かすべくサイドからクロスを放り込んでくる。
押し込まれる日本。しかし日本のセンターバック3枚もクロアチアの前線に対してマークを的確に掴みクロスボールを弾き返していく。
粘り強く戦う日本は43分、ショートコーナーからの攻撃でゴール前へのクロスを吉田が落とすと前田が左足で押し込みゴール。日本は今大会4試合目にして初めて先制点を奪い、前半は日本が1点リードで終える事になる。
後半、クロアチアは前半と同様に日本のゴール前にクロスボールを早いタイミングで入れてくる。日本のディフェンスラインに沿った軌道のハイボールを多用する事で前線の高さをより生かそうとしてくる。
そして55分、ロブレンのクロスをペリシッチがヘディングで日本ゴールに叩き込みクロアチアは同点に追いつく。
同点に追いつかれた日本は勝ち越しゴールを奪うべく、切り札の三苫を投入。しかしクロアチアはここでも三苫に対して強く抑え込む事はせず、中盤のスライドで三苫の攻撃力を削って来る。
打開を図りたい日本は右ウイングバックの伊東をトップ下に移すなどの対応をするが、クロアチアの守備を崩すには至らない。
試合は延長戦に突入するが、両チームともに延長戦ではゴールは生まれず決着はPK戦に委ねられる事になる。
運命のPK戦。
ここでクロアチアのゴールキーパー、リバコビッチがヒーローになる。日本のシュート4本のうち3本をセーブ。クロアチアは4人中3人が決めて勝負あり。
日本は初のベスト8進出まであと一歩まで迫ったものの、惜しくもベスト16敗退となってしまった。
クロアチアは日本の攻撃を抑え込むのではなく、そこそこは好きにやらせつつ攻撃の威力を削ぐ戦いを展開。攻撃に関しても日本の弱点を丹念に突いてきた。
正直、日本にとってはとても戦いにくい相手だった。
ドイツやスペインのように明確に形のあるチームに対しては、日本も対抗できた。
しかしクロアチアのように個人の技術力を土台に相手に合わせるようなサッカーに対してどのように戦うのか…。
前回大会のベルギー戦とはまた違った類の課題が日本代表には突き付けられたように私は感じた。
【投稿主選出の man of the match】 ドミニク リバコビッチ
コメント