最終節にグループ内全てのチームに決勝トーナメント進出の可能性があるという、大混戦のグループD
今回の欧州サッカー観戦記ではそのなかでも、日本人所属チーム同士が決勝トーナメント進出を賭けて対戦したスポルティング 対 フランクフルト 戦をレビューします
グループステージ突破の条件
スポルティング:引分け 以上
フランクフルト:勝利
スポルティングCP 対 アイントラハト フランクフルト
2022年11月2日 UEFAチャンピオンズリーグ グループステージ 第6節
スポルティングCP 1-2 アイントラハト フランクフルト
メンバー
スポルティングCP
監督 ルベン アモリム
【スタメン】
1 | アントニオ アダン (GK) |
3 | イェレミー セントユステ |
4 | セバスティアン コアテス |
10 | マーカス エドワーズ |
11 | ヌーノ サントス |
15 | マヌエル ウガルテ |
20 | パウリーニョ |
24 | ペドロ ボロ |
25 | ゴンサロ イナシオ |
28 | ペドロ ゴンサウベス |
33 | アルトゥール ゴメス |
【交代】
2 | マテウス レイス (32分In) |
➡ヌーノ サントス Out(怪我) | |
17 | フランシスコ トリンカン (63分In) |
➡マーカス エドワーズ Out | |
84 | ダリオ エスーゴ (63分In) |
➡ウガルテ Out | |
77 | ジョバネ カブラウ (78分In) |
➡セントユステ Out |
アイントラハト フランクフルト
監督 オリバー グラスナー
【スタメン】
1 | ケビン トラップ (GK) |
2 | エバン エンディカ |
6 | クリスティアン ヤキッチ |
8 | ジブリル ソウ |
9 | ランダル コロムアニ |
15 | 鎌田 大地 |
26 | エリックジュニオール ディナエビンベ |
27 | マリオ ゲッツェ |
29 | イェスパー リンドストロム |
33 | ルカ ペッレグリーニ |
35 | トゥータ |
【交代】
17 | セバスティアン ローデ (ハーフタイムIn) |
➡リンドストロム Out | |
36 | アンスガー クナウフ (69分In) |
➡ディナエビンベ Out | |
5 | フルボイエ スモルチッチ (80分In) |
➡ヤキッチ Out | |
19 | ラファエル ボレ (80分In) |
➡コロムアニ Out | |
11 | ファリデ アリドゥ (90分In) |
➡ゲッツェ Out |
基本システム
左:スポルティング(緑白) 右:フランクフルト(赤)
[システム図①]
試合開始時
[システム図②]
32分スポルティング ②マテウス レイス投入(ヌーノ サントス怪我)
[システム図③]
後半開始時 フランクフルト ⑰ローデ投入
[システム図④]
63分スポルティング ⑰トリンカン、(84)エスーゴ投入
69分フランクフルト ㊱クナウフ投入
[システム図⑤]
78分スポルティング (77)カブラウ投入 システム変更
80分フランクフルト ⑤スモルチッチ、⑲ボレ投入
90分フランクフルト ⑪アリドゥ投入
得点
【39分・スポルティング】得点者:アルトゥール ゴメス
フランクフルト陣内の右サイド、ゴールキーパー(GK)トラップからのフィードを受けた鎌田に対してウガルテとパウリーニョがプレスに行く。
2人からプレスを受けた鎌田は後方のエンディカにボールを戻すが、パウリーニョがエンディカに対して2度追いのプレスをかける。エンディカは前方のペッレグリーニにボールを出すも、パスを受けたペッレグリーニに対して今度はウガルテとペドロゴ ンサウベスがプレスに行きボールをカット。
こぼれ球を拾ったマーカス エドワーズがディフェンスを受けながらも強引にドリブルで進みペナルティエリア内に入ると、切り返してペナルティエリアの外側にいるウガルテにボールを返す。
ウガルテはゴール前にクロスを上げると、ニアでジブリル ソウの頭に当たりボールはファーサイドに流れる。このボールをアルトゥール ゴメスが右足でダイレクトに合わせるボレーシュートを放ち、ゴール。
[システム図⑥-(1)]ゴール直前、スポルティングのプレス
前半フランクフルトのパス回しに対して、アタッキングサードでは間合いを取る事が多かったが、この時間帯では積極的にフォアプレスに行く
①GKトラップからのフィードを受けた⑮鎌田に対して、⑮ウガルテ、⑳パウリーニョがプレス
鎌田が②エンディカにボールを戻すと、パウリーニョはエンディカに対して2度追いのプレス
[システム図⑥-(2)]
②エンディカは前方の㉝ペッレグリーニにボールを出すと、パスを受けたペッレグリーニに対して⑮ウガルテと㉘ペドロ ゴンサウベスがプレスに行きボールをカット、こぼれ球を⑩マーカス エドワーズが拾う
こぼれ球を拾ったマーカス エドワーズがドリブルで前進し、ウガルテのクロスからアルトゥール ゴメスのゴールへと繋がる
【62分・フランクフルト】得点者:鎌田 大地(PK)
59分のプレー、スポルティング陣内左タッチライン際のエンディカからパスを受けたゲッツェが浮球のクロスをゴール前に上げる。
このボールをコロムアニがヘディングしボールは上空へ。落下してきたボールを鎌田とコアテスが競り合う。この競り合いの際にボールはコアテスの腕に当たるが、プレーは暫くの間流れる。
数分後、VARの介入によりコアテスにハンドの判定が下りPKとなる。
このPKを鎌田がゴール右側に決める。
【72分・フランクフルト】得点者:ランダル コロムアニ
スポルティング陣内でエスーゴがドリブルでフランクフルトのプレスを剥がしに行くが、ボールが足元を離れ所をエンディカがカットしダイレクトで右ハーフスペースのクナウフにパス。
クナウフはトラップで浮いたボールをスポルティングのディフェンスライン裏へ蹴ると、ゴンサロ イナシオの裏に抜け出したコロムアニがゴンサロ イナシオと競りながらも右足でシュートを放ち、ゴール。
局面ごとの方針
スポルティングCP
【ネガティブトランジション】
放送席解説(wowow)の野口幸司氏は
「縦に出ようとするフランクフルトに対して前方のスペースに人を立たせる事で、フランクフルトの攻撃のファーストアクションを抑えている」
と説明。
前半はこの局面での動きが機能していたが、後半は後手に回る事が多くなる。
【守備】
フランクフルトのビルドアップに対して5-2-3の陣形を組みペドロ ゴンサウベス、ウガルテの両センターハーフ(CH)はフランクフルトの2CHをみる。アタッキングサードではフランクフルトのパス回しに対して間合いを取るが、フランクフルトがディフェンスラインから中盤にボールを入れてくればボールホルダーに寄せてプレスに行く。
自陣に下がれば5-4-1のブロックを敷く。
同点に追いつかれた63分以降、フランクフルトのビルドアップに対してトリンカン、パウリーニョ、アルトゥール ゴメスの前線3人がフランクフルトの3センターバック(CB)に対して前に出てプレスに行くようになる。
【ポジティブトランジション】
フランクフルトがプレスに来ればプレスを回避してポゼッションを確立する事が基本方針。
前方にスペースがある状態でボールホルダーの前が空けば縦にボールを運んでスペースを突く。
【攻撃】
ビルドアップは最後尾にセントユステ、ゴンサロ イナシオが立ち、コアテスは前に出てアンカー的なポジション。その前にウガルテ、ペドロ ゴンサウベスが立つので、並びは2-1-2。フランクフルトのフォアプレスに対してペドロ ゴンサウベスが左サイドに張り出す事でプレスを剥がす(詳細は[システム図⑦]参照)。
ペドロ ゴンサウベスを起点にして、プレスを剥がした事によって生じたノーマークの選手を使いパスを繋いで前進しフランクフルトゴールへと迫る。
[システム図⑦]フランクフルトがフォアプレスに来た時の、ビルドアップ時の陣形
㉘ペドロ ゴンサウベスが左に流れる事で⑮鎌田がサイドに引っ張られてしまい、⑨コロムアニは本来マークにつく㉕ゴンサロ イナシオにつき続けるのかペドロ ゴンサウベスにマークを切り替えるのかの選択を迫られる
この状態でペドロ ゴンサウベスにボールが渡ればコロムアニと鎌田の2人が遅れてマークにつく事になり、ペドロ ゴンサウベスにとっては一気に2人のマークを剥がすチャンスになる
サイドに流れるペドロ ゴンサウベスに対してコロムアニか鎌田のどちらかが予めサイドにポジションを取れば、ゴンサロ イナシオが左ハーフスペースでボールを持ち上がったり縦パスを差し込む事が容易になる
後半、フランクフルトが前掛かりになった事で前方にはスペースが生じる。プレスを剥がす事ができれば個人の力で縦へとボールを持ち出しスペースを突く。
後半のアディショナルタイムにはコアテスが前線に上がる。
フランクフルト
【ネガティブトランジション】
システムマッチアップ上、マッチアップが噛み合う関係。
スポルティング陣内ではすぐにマークを掴んで、マッチアップする相手の前方を塞ぎ、間合いを詰めてボールを奪いに行く。
後半、ローデの素早い動き出しをきっかけにこの局面での強度が飛躍的に上昇。素早いカウンタープレスでボールを奪う。
【ポジティブトランジション⇒攻撃】
ビルドアップはトゥータ、ヤキッチ、エンディカの3CBと、その前に中盤の鎌田、ソウが3-2で並びパスを回す。スポルティングのフォアプレスが強ければトゥータはサイドに開きプレスの逃げ場になる。
ビルドアップからの攻撃、ポジティブトランジションともに早いタイミングでボールを縦に入れ、パスの受け手に対して周囲の選手が縦方向への動きでサポート。レイオフなどを交えながら縦にボールを進め、オフザボールでディフェンスラインの裏を突くコロムアニへのスルーパスという流れが攻撃の狙いとしてあったと思われる。
但し上記した縦への攻撃はあまり効果は上がらず、時間の経過とともにコロムアニが左に流れてボールを受けペッレグリーニ、ゲッツェへボールを渡して左サイドからスポルティングのディフェンスラインを崩しに行くようになる。
30分を過ぎた辺りから、トゥータやエンディカがボールを持ち上がる事が増える。
後半、ローデが交代で入った事でトランジションでの動きの速さや強さが向上。ボールを奪えばローデを起点に早いタイミングで鎌田、ゲッツェにボールを当て、そこから少ないタッチでパスを繋いでラインブレイクを狙う。スポルディングが中央を固めればペッレグリーニがサイドのスペースを突く。
ローデは攻撃の起点になるだけでなく、ボールの前進とともに自身も前線付近まで上がりフィニッシュまでの中継点になる。
80分台に入るとスコアをリードしている事もあり、守備とのバランスを取る為に攻撃のペースを落とす。カウンターアタックの場面でも攻撃に参加する人数は最低限で守備の為に後方に人を残す。
【守備】
スポルティングのビルドアップに対してスポルティング陣内からプレス。リンドストロム、コロムアニ、ゲッツェの前3人はスポルティングの3CBを、ディナエビンベ、ペッレグリーニの両ウイングバック(WB)はスポルティングの両WBを各々マークしプレスを嵌めに行く。
コロムアニがGKにチェイシングをかける時(後半によくあった)はリンドストロム(後半は鎌田)とゲッツェがスポルティングの左右CBをマークしつつ前に出ているコアテスや中盤へのパスコースを切る。
自陣に下がれば5-4-1のブロックディフェンス。
試合の感想・ポイント
前半
スポルティングが的確な守備対応をみせ、ここ一番のプレスによるボール奪取から先制点を奪う
フランクフルトはビルドアップからの攻撃、ポジティブトランジションともにスピーディーな縦攻撃をメインオプションとして想定していたと思われるが、スポルティングの的確な守備対応により前半途中で攻撃方針の変更を余儀なくされたように感じた。
スポルティングは守備面において慌ててプレスに行くのではなく、一旦マッチアップマンに対して間合いを取りフランクフルトの選手が進もうとしているエリアをしっかりと抑える事を優先。そのなかでプレスが嵌りそうな条件が整っていればプレスに行くという、メリハリをつけた守備を行い試合の流れを落ち着かせる。39分の先制ゴールは「ここぞ」というタイミングを逃さず前に出てプレスをかけた事によるボール奪取が起点となった。
後半
ローデの投入によりトランジションンの強度が爆上がり、後半はフランクフルトのペースに
ハーフタイム明け、フランクフルトは中盤にローデを投入。ローデはトランジションで積極的な動きをみせ、フランクフルトの他の選手達もその動きに呼応。試合のテンポは一気にアップする。
フランクフルトは攻守両面でローデが中心になりネガティブ、ポジティブの両トランジションで優位に立ち、スポルティングを押し込んで行く。そして62分、フランクフルトはコアテスのハンドで得たPKを鎌田が決めて同点に追いつく。
同点に追いつかれたスポルティングだが、この時点ではまだグループステージ突破圏内ではあったもののアモリム監督は動きをみせる。失点直後の63分、中盤で攻守のバランスを取っていたウガルテを下げて、若いエスーゴを投入する。
結果的にこの投入は裏目に出てしまう。72分スポルティングはエスーゴのボールロストの流れから痛恨の逆転ゴールを献上。最終的にこの72分のゴールが決勝点となりフランクフルトが勝利。
フランクフルトが決勝トーナメント進出を決め、敗れたスポルティングはグループステージ敗退(ヨーロッパリーグ 決勝トーナメント・プレーオフ出場)となってしまう。
スポルティングに対する感想
前半は的確な守備対応によって試合の流れを落ち着かせ、ビルドアップでも上手くフランクフルトのプレスを回避して試合のペースを掴んだ。
しかし後半はトランジション局面でテンポアップしたフランクフルトの動きに後手を踏みペースを奪われてしまう。
同点に追いつかれた直後にエスーゴを投入したアモリム監督の采配には、結果論とは言え疑問を感じてしまう。
過密日程による選手のコンディション等々、諸々の事情があるので一概にアモリム監督の采配を否定はできないが、それでも同点(グループステージ突破圏内)の状況でウガルテを下げてまでして、若いエスーゴを投入するのはリスクが大きかったのではないだろうか?
フランクフルトに対する感想
後半開始時に投入されたローデの攻守にわたる活躍がフランクフルトを勝利に、そして決勝トーナメント進出に導いた。
ローデのトランジションでの動きが試合のテンポを一気に上げ、フランクフルトが目指す縦に速い攻撃が機能した。
勝負を分けたポイント
選手交代によって試合の流れが大きく変化した。
フランクフルトはローデの投入により試合のペースを掴み逆転に成功した。
対するスポルティングは途中出場のエスーゴが独力でプレスを剥がしに行った際にボールロストした事が失点のきっかけになってしまった。
途中出場した選手のプレーが結果に大きく関わった試合だった。
選手寸評
スポルティングCP
ペドロ ゴンサウベス | ビルドアップから敵陣へと進出する局面では、彼のポジショニングによってフランクフルトのフォアプレスを外していた。戦術上のキーマンとして、特に前半は彼の働きが攻撃面で機能していた。 |
アルトゥール ゴメス | フィールドの左側から前進する事が多かったスポルディングにとって、彼の仕掛けは重要な意味を持っていた。39分には見事なダイレクトボレーシュートで先制ゴールを挙げた。 |
パウリーニョ | 攻撃面での見せ場は少なかったが、守備面では先制ゴールに繋がる二度追いのプレスや、セットプレー時のストーンとしてチームに貢献した。 |
フランクフルト
セバスティアン ローデ | 彼の投入が試合の流れを一変させた。激しいプレスでボールを奪い、奪ったボールを前方に展開すると自らも前線付近まで上がり攻撃参加。試合のテンポを大きく上げて勝利に貢献した。 |
ランダル コロムアニ | オフザボールでディフェンスラインの裏をねらい、72分にはチームを決勝トーナメントに導くゴールを決める。裏抜けの際のコースやタイミングにはやや甘さがあると思ったが、力強さは十分に感じられた。 |
ルカ ペッレグリーニ | 左サイドを上下動し続け、攻撃時にはサイドのスペースを突き、守備時には後方のスペースをカバー。攻守両面でチームに貢献した。 |
エバン エンディカ | カバーリングエリアは広範囲に及び、競り合いでも当たりの強さをみせた。攻撃でも自らボールを持ち上がり攻撃に厚みを加えていた。 |
投稿主選出の man of the match
セバスティアン ローデ
UEFAチャンピオンズリーグ グループD
最終節 結果
スポルティングCP 1-2 アイントラハト フランクフルト
オリンピック マルセイユ 1-2 トッテナム ホットスパー
最終順位
順位 | クラブ | 勝点 | 得失点差 | 備考 |
1 | トッテナム ホットスパー | 11 | 2 | 決勝トーナメント |
2 | アイントラハト フランクフルト | 10 | -1 | 決勝トーナメント |
3 | スポルティングCP | 7 | -1 | ELプレーオフ |
4 | オリンピック マルセイユ | 6 | 0 |
最終節の結果を受け、トッテナムとフランクフルトが、みごとに決勝トーナメント進出
スポルティングはヨーロッパリーグの決勝トーナメントプレーオフへと戦いの舞台を移す
マルセイユは残念ながら、ここで欧州の舞台からは姿を消す事となった
以上、スポルティングCP 対 アイントラハト フランクフルト 戦のマッチレビューでした
本レビューは、あくまで投稿主個人の考えや感想を記事にしたものです。
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