欧州サッカー観戦記 22-23 UEFAチャンピオンズリーグ グループステージ 第3節

SLベンフィカ対パリサンジェルマン UEFAのコンペティション

開幕連勝スタートのチーム同士による、グループHの首位攻防戦第1ラウンド
両チームともに戦術的な適応能力の高さを発揮、試合終盤まで一進一退の攻防が続いた

SLベンフィカ 対 パリ サンジェルマン

2022年10月6日 UEFAチャンピオンズリーグ グループステージ 第3節
SLベンフィカ 1-1 パリ サンジェルマン

メンバー

SLベンフィカ
監督 ロジャー シュミット

【スタメン】

99 オディセアス ブラホディモス (GK)
3 アレハンドロ グリマルド
6 アレクサンダー バー
7 ダビド ネレス
13 エンゾ フェルナンデス
20 ジョアン マリオ
27 ラファ シウバ
30 ニコラス オタメンディ
61 フロレンティーノ ルイス
66 アントニオ シウバ
88 ゴンサロ ラモス

【交代】

93 ユリアン ドラクスラー (78分In)
➡ゴンサロ ラモス Out
8 フレドリック アウルスネス
(78分In)
➡エンゾ フェルナンデス Out
18 ロドリゴ ピーニョ (90+1分In)
➡ダビド ネレス Out

パリ サンジェルマン
監督 クリストフ ガルティエ

【スタメン】

99 ジャンルイジ ドンナルンマ (GK)
2 アクラフ ハキミ
4 セルヒオ ラモス
5 マルキーニョス
6 マルコ ベラッティ
7 キリアン エンバペ
10 ネイマール
15 ダニーロ ペレイラ
17 ビチーニャ
25 ヌーノ メンデス
30 リオネル メッシ

【交代】

14 フアン ベルナト (67分In)
➡ヌーノ メンデス Out(怪我)
19 パブロ サラビア (81分In)
➡メッシ Out
8 ファビアン ルイス (87分In)
➡ビチーニャ Out

基本システム

左:ベンフィカ(赤) 右:パリSG(紺)

[システム図①]
試合開始時

[システム図②]
67分パリSG ⑭ベルナト投入(ヌーノ メンデス怪我)

[システム図③]
78分ベンフィカ ⑧アウルスネス、(93)ユリアン ドラクスラー投入
81分パリSG ⑲パブロ サラビア投入

[システム図④]
87分パリSG ⑧ファビアン投入
90+1分 ベンフィカ ⑱ピーニョ投入

得点

【22分・パリSG】得点者:リオネル メッシ
ハーフウェイライン付近の右サイドでボールを奪ったセルヒオ ラモスが前方のタッチライン際にいるハキミへパス。ハキミに対してベンフィカはグリマルドとエンゾ フェルナンデスがプレスに行くがハキミはビチーニャにパスを捌いてプレスを剥がすと、ビチーニャはダイレクトでボールをメッシに渡す。
フリーでボールを受けたメッシは右ハーフスペースをドリブルで上がり最前線に張るエンバペに縦パス。エンバペは中央のネイマールにボールを捌くと、ネイマールは前線に走り込むメッシに丁寧にボールを渡す。
ネイマールのパスにドンピシャのタイミングで走り込んで来たメッシは左足でファーサイドへ巻くシュートを放ち、ボールはゴールに吸い込まれる。

【41分・ベンフィカ】オウンゴール(ダニーロ ペレイラ)
エンゾ フェルナンデスが左ハーフスペースから左サイドのラファ シウバにスルーパスを出すも、ボールは流れてコーナーフラッグ付近へ。このボールにラファ シウバが追いつきボールをキープしながらペナルティエリアの角辺りまでドリブルで戻り、後方のフロレンティーノ ルイスにパス。
フロレンティーノ ルイスは左サイドのエンゾ フェルナンデスへパスを出すと、エンゾ フェルナンデスは右足でインスイングのクロスをゴール前に送る。ゴール前でクロスを待ち構えるゴンサロ ラモスをマルキーニョスとダニーロ ペレイラがマーク。
ボールはゴールに向かう軌道でゴンサロ ラモスの頭上を僅かに超えると、ダニーロ ペレイラに当たりゴールへと入る。

このゴールについて放送席解説(wowow)の関塚隆氏は、直前にグリマルドが左サイドをオーバーラップした事が有効だった説明していた。

局面ごとの方針

ベンフィカ

【ネガティブトランジション】
前半は素早くボールサイドにチーム全体で寄せて密集状態を作り、そこでマークを掴んでプレスに行く。

後半は、陣形を整える事を優先し、カウンタープレスにはあまり行かなくなる。

【守備】
パリSGのビルドアップに対してアタッキングサードからプレスに行く。ラファ シウバはダニーロ ペレイラを、ゴンサロ ラモスはセルヒオ ラモスをマークし、中盤から後ろは前の2人に連動してボールサイドにチーム全体で寄せて行きマークを掴んでプレス。パリSGのウイングバック(WB)が上がって来ればバー、グリマルドのサイドバック(SB)が前に出てマークする。
パリSGがプレスを外してポゼッションを確立すれば一旦リトリートし、4-4-2の陣形を組みパスの受け手にアプローチする形でマークを掴む。

後半は、前半とは一転してラインを下げる。
パリSGのビルドアップに対して、ボールホルダーにアプローチするのはミドルサードに侵入されてかから。ゴンサロ ラモス、ラファ シウバの前2人がパリSGの3CBをみて、その後ろに4-4の2ラインを敷きボールサイドにラインを絞る。自陣まで下がればサイドはほぼ捨てて中央を固める形でゴール前にブロックを敷く。
60分台後半頃になるとチーム全体で若干ラインを上げる。パリSGの後方でのパス回しに対して前の2人に加えてダビド ネレス、ジョアン マリオの両サイドハーフもボールホルダーにアプローチする。

[システム図⑤-(1)]前半の守備方針
㉗ラファ シウバ、(88)ゴンサロ ラモスがパリSGのディフェンスラインにプレッシャーをかけ、中盤が適切な距離感を保ちながら前の2人に連動してプレスに行く

この状態から、ボールの動きに合わせてボールサイドにチーム全体で陣形を絞りプレスを強める

[システム図⑤-(2)]後半の守備方針
中央を固めサポート体制を作る
SBも中央に絞るのでサイドにスペースができるが、中央はより堅くなる

【ポジティブトランジション⇒攻撃】
ビルドアップはアントニオ シウバ、オタメンディの2センターバック(CB)の前にエンゾ フェルナンデスが立つ2-1の並びが起点となり、フロレンティーノ ルイスは中央で、アレクサンダー バーとグリマルドの両SBはサイドで、各々ビルドアップをサポート。
パリSGはビルドアップに対してはフォアプレス、ポジティブトランジションではカウンタープレスに来るので、まずはパスを繋いでプレスを剥がしにいくが、剥がすのが難しければ一旦ボールを逃がしてゴンサロ ラモスをターゲットに前線にロングボールを入れるか、パリSGのディフェンスラインの裏にボールを送りゴンサロ ラモスをスペースに走らせる。そこからチーム全体でラインを押し上げてゴンサロ ラモスをサポートし、マイボールにできればそこを起点に攻撃。マイボールにできなければカウンタープレスに行く。
アタッキングサードでの崩しはラファ シウバが中心、彼がバイタルエリアで前を向けばダビド ネレスやゴンサロ ラモスがディフェンスラインのギャップを突いてパリSGゴールに迫る。

後半はポジティブトランジションからの縦攻撃が攻撃方針の中心になる。
ボールホルダーが前を向けば前線に張るゴンサロ ラモスや前方のスペースを突くラファ シウバにボールを送りそこからシンプルに手数をかけずパリSGゴールに迫る。

パリSG

【ポジティブトランジション】
ボールを奪えば、ボールの周囲の選手がボールホルダーに対して素早くサポートに行き、パスを繋いでベンフィカのプレスを外して前方のスペースを突く。
前が詰まればポゼッションオフェンスに移行。

[攻撃]
ビルドアップはセルヒオ ラモス、マルキーニョス、ダニーロ ペレイラの3CBの前にベラッティが立つ3-1の並びでパスを回す。マルキーニョスは状況に応じて前後に動く。ハキミ、ヌーノ メンデスの両WBはベンフィカがフォアプレスに来ればビルドアップをサポートし、ボールが前に進めばサイドを上がる。ビチーニャはビルドアップ時、基本は前に出てビルドアップからのパスの受け手になるが、状況によってはポジションを下げてビルドアップのサポートに入る。
ビルドアップでの狙いはライン間のメッシ、ビチーニャに縦パスを差し込む事。ライン間でメッシ、ビチーニャが前を向いてボールを持てばアタッキングサードに向けて前進して行く。
ベンフィカが前掛かりの守備をして来る場合はライン間でメッシがボールを受けて前を向けば一気に前進しビチーニャと両WBも同時に前進しアタッキングサードへと侵入する。ネイマールとエンバペは前線に張りメッシ、ビチーニャとのパス交換とフリーランニングの組み合わせでベンフィカの守備を崩しにかかる。
ベンフィカがリトリートして4-4-2の守備陣形で構えた時はメッシ、ビチーニャがフィールド中央から時には左ハーフスペースに位置し、前線のネイマール、エンバペに通すパスを狙いつつ、ベンフィカが中央を固めればサイドにボールを振り、ヌーノ メンデスが前線の選手とのコンビネーションで左サイドのスペースを突く。ここで前が詰まれば右サイドのハキミへサイドチェンジ。
この試合でのエンバペは前線に張ってポストになるようなプレーが主な役割で、フリーランニングでディフェンスラインの裏を狙う事は少なかった。メッシとネイマールは流動的にポジションを変えながら動いていたがメッシはライン間、ネイマールは前線付近という配置が多かった

後半ベンフィカは前からのプレスの威力を弱めラインを下げ、ベンフィカ陣内まで下がれば守備ブロックを中央に絞りゴール前を固めた。
それによりまずビルドアップの段階で両WBは早い段階でサイドを上がる。また、アタッキングサードではサイドにスペースが大きく空いているのでWBを使う攻撃が増える。

[システム図⑥]攻撃時のポジショニング
ビルドアップは④セルヒオ ラモス、⑤マルキーニョス、⑮ダニーロ ペレイラの3CBと⑥ベラッティが担う
②ハキミと㉕ヌーノ メンデスの両WBはベンフィカのプレスが強ければビルドアップをサポートし、ボールが前に進めばサイドを上がり攻撃の幅を取る
ビルドアップから⑰ビチーニャ、㉚メッシ、⑩ネイマール、⑦エンバペの前4人にボールを差し込む
前の4人は適切な距離感を保ちながらベンフィカの守備ブロックを崩しにかかる

【ネガティブトランジション】
アタッキングサード、ミドルサードでは素早くボールホルダーに寄せてカウンタープレスに行く。

【守備】
ベンフィカのビルドアップに対してメッシ、ネイマール、エンバペの前3人のうちの2人がベンフィカの2CBをみて、残りの1人が中盤へのパスコースをケア。ハキミ、ビチーニャ、ベラッティ、ヌーノ メンデスの4人は前の3人に連動する形で前に出てプレスに行く。
ベンフィカが前進して来れば、前3人のうちの一番後ろの選手(主にネイマール)が中盤のスペースを埋める。
自陣側へリトリートすれば5-3-2のブロックディフェンス。ネイマールは中盤の左に入る。

試合の感想・ポイント

前半

ベンフィカが激しいプレスでペースを握るかにみえたが、パリSGは的確な対応で攻勢に転じる

お互いにネガティブトランジションでのマークの掴み、ボールへの寄せが速く陣形もコンパクトなので球際での攻防が激しくなる。プレスを外して一気に前に出て相手ゴールに迫ろうとしても、両チームともにディフェンスラインの戻りも速く簡単にはフィニッシュまで行かせない。
そんな展開の中、先に試合のペースを掴んだのはベンフィカ。フォアプレスが嵌りパリSG陣内でボールを奪う事が増え、決定機も作ったがドンナルンマの好セーブもあり得点を奪えない。
すると22分パリSGは右サイドでベンフィカのプレスをかわすと、メッシ、エンバペ、ネイマール、メッシとパスを繋ぎ最後はメッシが右ハーフスペースから左足でファーに巻くシュートをベンフィカゴールに突き刺しパリSGが先制する。
パリSGが先制点を挙げた時間帯辺りから、パリSGはベンフィカのプレスを剥がしてライン間のメッシ、ビチーニャに縦パスを差し込み前進するようになり試合の流れはパリSG側に傾く。
劣勢に回ったベンフィカだが、ポジティブトランジションから縦にボールを出して前進すると41分にはエンゾ フェルナンデスの絶妙なクロスがオウンゴールを誘い同点に追いつく。

後半

攻勢を強めるパリSGに対して、ベンフィカはゴール前を固めるディフェンスで対抗する

後半の立ち上がりベンフィカはラインを下げた事によりパリSGが攻勢に出る。パリSGはベンフィカゴールに迫り決定機も何度か作るが、ブラホディモスの好セーブもあり得点を奪えない。
守勢のベンフィカだがサイドを捨ててゴール前を固める守備が時間の経過とともに堅さを増して行く。ベンフィカの守備陣は押し込まれながらもパリSGの攻撃を掴むようになっていき、パリSGは徐々に攻めあぐねるようになる。
すると今度はベンフィカの繰り出すカウンターアタックがパリSGゴールを脅かすようになりラファ シウバがパリSGゴールに迫る。
試合終盤、互いに一進一退の展開になるが後半はゴールが生まれず。
グループHの首位攻防第1ラウンドは1対1のドロー決着となった。

ベンフィカに対する感想

前半はパリSG陣内で前に出てマークを掴みプレスに行き、後半は中央に絞ったブロックを自陣に敷いてゴール前を固めるという、前半と後半で全く違ったサッカーを展開した。

どちらのサッカーもチームとして機能しており、チーム全体の引き出しの幅広さと状況対応力を感じた。

 

攻撃に関してはゴンサロ ラモスとラファ シウバの2人に対する依存度がやや高いと感じたが、これは相手がパリSGなのである程度は仕方が無いのかな、とは思った。

パリSGに対する感想

立ち上がりベンフィカのプレスに上手く嵌められてしまったが、20分頃から上手くプレスを外してボールを前に運べるようになった。

この20分頃からベンフィカのプレスを外せるようになった理由について、皆さんのご意見を教えて頂きたいので、もしよろしければコメント欄にコメントを頂ければと思います。

 

今シーズンのパリSGは昨シーズンと比べて大きく変化しているように感じる。

昨シーズンは攻撃と守備が分離していて、守備7:攻撃3の人数比が大部分で固定されていた。攻撃もカウンターアタック中心で、エンバペを如何に走らせるかに重きが置かれていた印象だった。

それが今シーズンはポゼッションをしっかりと取り、後方で攻撃を組み立て段階を踏んで前進する事が増えた。WBも崩しの局面で積極的に攻撃に絡むなどチーム全体で攻めているように感じる。

皆さんは今シーズンのパリSGのサッカーに対してどのような感想をお持ちなのか、こちらもぜひ皆さんの意見を聞きたいと思うので、もしよろしければコメントをお願いします。

試合全体の感想

前半の立ち上がりパリSGはベンフィカのプレスに苦戦するも、徐々にそのプレスに対応して攻略。ボールを前線に運ぶようになる。

後半ベンフィカは守備戦術を大幅に変更。ラインを下げてゴール前を固める。

当初はプレスが弱まった事によりパリSGの猛攻を受けるが、徐々にパリSGの攻撃に適応し、パリSGの攻撃を弾き返すようになる。

 

両チームともに相手チームの戦い方に適応し、戦術変更による状況の変化にも的確に対応。両チームの状況対応能力や修正能力の高さをみる事ができた好ゲームだった。

選手寸評

ベンフィカ
ジョアン マリオ 抜群のポジショニングと読みでパリSGのボールを何度も奪取。攻撃でもプレスを受けて周囲を敵に囲まれてもボールをキープして味方にボールを捌くなど、攻守で存在感をみせた。
ラファ シウバ 攻撃の中心としてパリSGの守備の急所を鋭く突く。後半にみせた切れ味鋭いドリブルはパリSGを土俵際まで追い詰めた。
フロレンティーノ ルイス 中盤のフィルターとして奮闘。スター軍団を相手にしても一歩も引かない力強い動きをみせていた。
アントニオ シウバ 中央を固めつつサイドをカバー。状況によっては前に出てボールホルダーに強くアプローチしボールを奪いに行くなど、守備範囲の広さをみせた。
エンゾ フェルナンデス オウンゴールに繋がる41分のクロスは、ディフェンダーが最も守り難い軌道のボール。抜群の攻撃センスでこの試合も攻撃の起点としてチームに貢献した。
パリSG
リオネル メッシ ライン間でボールを受ければボールを前へと運び、アタッキングサードに侵入すれば左足でゴールを射抜く。ここに来て本来の調子を取り戻しつつある。
ダニーロ ペレイラ ベンフィカのスピーディーな攻撃に対して、先手を取る動きで冷静に対応。非常に安定度の高い守備をみせた。
マルコ ベラッティ 立ち上がりはベンフィカのフォアプレスに苦戦するが、時間の経過とともにプレスを攻略し的確に前線にボールを届ける。厳しい状況に対峙した時の対応力は流石の一言。
ビチーニャ ライン間を広範囲に動き回り中盤でメッシをサポート。メッシへの守備の圧力を分散させる。攻撃に於いて潤滑油的な役割を高いレベルで果たした。
ジャンルイジ ドンナルンマ ゴール前でベンフィカのアタッカー陣の前に立ちはだかり、チームのピンチをビッグセーブで救った。

投稿主選出の man of the match

リオネ ルメッシ

以上、SLベンフィカ 対 パリ サンジェルマン 戦のマッチレビューでした

本レビューは、あくまで投稿主個人の考えや感想を記事にしたものです。
本レビューに対して、ご意見やご感想があれば下のコメント欄よりコメントを頂ければ幸いです。

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