通算192回目(リーグ戦171回目)のノースロンドンダービーは首位攻防戦
まだシーズン序盤とはいえ、今後の優勝争いに大きく影響を及ぼす可能性があるだけに注目度の高い一戦となった
今回の欧州サッカー観戦記は世界的にも注目された一戦、アーセナル対トッテナム ホットスパーのノースロンドンダービーをレビューしたいと思います
アーセナル 対 トッテナムホットスパー
2022年10月1日 イングランド プレミアリーグ 第9節
アーセナル 3-1 トッテナムホットスパー
メンバー
アーセナル
監督 ミケル アルテタ
【スタメン】
1 | アーロン ラムズデイル (GK) |
4 | ベンジャミン ホワイト |
5 | トーマス パーティ |
6 | ガブリエウ マガリャンイス |
7 | ブカヨ サカ |
8 | マルティン ウーデゴール |
9 | ガブリエウ ジェズス |
11 | ガブリエウ マルティネッリ |
12 | ウィリアム サリバ |
34 | グラニート ジャカ |
35 | オレクサンドル ジンチェンコ |
【交代】
3 | キーラン ティアニィ (73分In) |
➡ジンチェンコ Out | |
23 | アルベール サンビロコンガ (73分In) |
➡トーマス Out | |
14 | エディ エンケティア (80分In) |
➡ジェズス Out | |
21 | ファビオ ビエイラ (80分In) |
➡ウーデゴール Out | |
18 | 冨安 健洋 (89分In) |
➡ベンジャミン ホワイト Out |
トッテナム ホットスパー
監督 アントニオ コンテ
【スタメン】
1 | ウーゴ ロリス (GK) |
5 | ピエールエミル ホイビア |
7 | ソン フンミン |
9 | リシャルリソン |
10 | ハリー ケイン |
12 | エメルソン ロイヤル ➡62分 退場 |
14 | イバン ペリシッチ |
15 | エリック ダイアー |
17 | クリスティアン ロメロ |
30 | ロドリゴ ベンタンクール |
34 | クレマン ラングレ |
【交代】
2 | マット ドハティ (71分In) |
➡ペリシッチ Out | |
6 | ダビンソン サンチェス (71分In) |
➡ラングレ Out | |
19 | ライアン セセニョン (71分In) |
➡ソン フンミン Out | |
38 | イブ ビスマ (71分In) |
➡リシャルリソン Out | |
4 | オリバー スキップ (75分In) |
➡ホイビア Out |
基本システム
左:アーセナル(赤) 右:トッテナム(白)
[システム図①]
試合開始時
[システム図②]
62分ミラン ⑫エメルソン退場
(下図では4-4-1的な並びになっているが、実際には⑰クリスティアン ロメロか⑨リシャルリソンのどちらかがエメルソンが元々いたポジションを埋める形が多かった)
[システム図③]
71分トッテナム ②ドハティ、⑥ダビンソン サンチェス、⑲セセニョン、㊳ビスマ投入 システム変更
73分アーセナル ③キアニー、㉓サンビロコンガ投入
[システム図④]
75分トッテナム ④スキップ投入
[システム図⑤]
80分アーセナル ⑭エンケティア、㉑ファビオ ビエイラ
89分アーセナル ⑱冨安 健洋 投入
得点 退場者
【20分・アーセナル】得点者:トーマス パーティ
アーセナルのポゼッションオフェンス。
フィールドの左側からトッテナムを押し込み一旦後方にボールを戻す。ボールはガブリエウ マガリャンイス、サリバの両センターバック(CB)を経由しサリバは右サイドのサカへボールをフィードする。
サカはマッチアプするペリシッチに対してドリブルでじわじわと前進すると、ソン フンミンがペリシッチのサポートに来る。
ソン フンミンの動きをみたサカはペナルティエリア右角のベンジャミン ホワイトへパス。この時トッテナムはケイン以外の全選手がゴール前を固めている状態。
ベンジャミン ホワイトはペナルティアークの外側にいるトーマスにパスを送ると、トーマスは右足で丁寧にシュートを放ちゴール。
【31分・トッテナム】得点者:ハリー ケイン(PK)
トッテナムは自陣からのロングカウンター。
中央でボールを受け前進するソン フンミンはケインとのワンツーパスでアーセナルの中盤をブチ抜き、アーセナル陣内に侵入。ソン フンミンは右側をフリーで走るリシャルリソンへパスを送が、パスはズレてリシャルリソンの右側へ流れる。リシャルリソンは右のニアゾーン深くでボールに追いつきゴール前にクロスを上げる。
このクロスをサリバがヘディングでクリアし、クリアボールをジャカが拾うがリシャルリソンはジャカからボールを奪う。そこへガブリエウ マガリャンイスがタックルに行くもリシャルリソンの脚にタックルが行ってしまいPKの判定となる。
このPKをケインがゴール中央に決める。
【49分・アーセナル】得点者:ガブリエウ ジェズス
アーセナルのポゼッションオフェンス。
フィールドの左側から押し込むと一旦ボールをジンチェンコに戻し、ガブリエウ マガリャンイス、サリバとボールを繋いでサリバはフィールド中央のトーマスにパス。トーマスは右サイドのサカにボールを展開。
サカはドリブルで仕掛けペナルティエリア内へ侵入し、その外側をベンジャミン ホワイトがオーバーラップ。サカはベンジャミン ホワイトをデコイに自ら左足でシュート。
このシュートを一旦はゴールキーパー(GK)のロリスが防ぐも、こぼれ球に素早く反応したジェズスが、自身より前にいたクリスティアン ロメロ、ダイアーの間を割って抜け出しボールをゴールに押し込む。
【レッドカード 62分・トッテナム】退場者:エメルソン ロイヤル
アーセナル陣内、タッチライン際で自陣ゴール方向へドリブルをするマルティネッリに対して足裏でマルティネッリの足首に向けてタックルに行く。
【67分・アーセナル】得点者:グラニート ジャカ
フィールド中央、ハーフウェイラインよりやや後方の位置からトーマスはジャカとの縦のワンツーパスでホイビアを剥がしフィールド左側から中央に向けて入って来たマルティネッリへパス。
ペナルティエリアの直前でパスを受けたマルティネッリは右側へドリブルし中央にいたジャカとボールをスイッチ。
ボールを受けたジャカは左方向にドリブルしフリーでゴール前に侵入すると左足でシュートを放ちゴール。
[システム図⑥]放送席解説(Abema TV)の戸田和幸氏が高く評価したマルティネッリの動き
左サイドを走る⑪マルティネッリに対して⑰クリスティアン ロメロはサイドのスペースを埋める動きをみせた瞬間、マルティネッリはクリスティアン ロメロの逆を突いて中央へとフリーランニングのコースを変えディフェンスラインの間にぽっかりと空いたスペースへと侵入する
⑤トーマスはマルティネッリの動きを見逃さず、すかさずパスを送る
上の図の後、マルティネッリは中央へドリブルすると㉞ジャカとスイッチ
フリーになったジャカは左前方へドリブルし左足でシュートを決める
局面ごとの方針
アーセナル
【ポジティブトランジション】
ボールホルダーが前を向けば、前のラインの選手に縦パスを差し込む。
トッテナムが先にリトリートすればボールをキープしてポゼッションオフェンスに移行。
【攻撃】
ビルドアップの形、立ち上がりはベンジャミン ホワイト、サリバ、ガブリエウ マガリャンイスの3枚が最終ラインでその前にトーマスが立つ3-1の並びで、ジンチェンコは左サイドを上がっていた。それが時間の経過とともにジンチェンコが内側に絞ってトーマスと中盤に並ぶ3-2の並びになる。
ジンチェンコのポジショニングについて解説の戸田和幸氏は
「トッテナムが前に出てプレスに来れば前線3枚が内に絞るのでサイドを上がり、リトリートしてブロックを敷けば(リシャルリソンがサイドに入るので)内側に絞る」
と説明していた。
ビルドアップのパス回しから左右にボールを振ってアタッキングサードへ侵入。サイドを変える際はトーマスやライン間に下がって来るジェズスが中継点になる。
サイドからの崩しについて、フィールドの右側から攻める場合はサカがサイドから仕掛け、ベンジャミン ホワイト、ウーデゴールがハーフスペースでサカをサポート。ディフェンダーのマークを外せば対角線のクロスを上げ、トッテナムがサイドの守りを固めればウーデゴールがゴール前にスルーパスを送る。
フィールドの左側から攻める場合はマルティネッリが単独でドリブルカットインし、そこにジェズスが絡む。ジャカは早いタイミングでペナルティエリア内に侵入する。
自陣ゴール前にブロックを敷いて守りを固めるトッテナムに対して、後半に入ると左右両側で攻撃方法を修正。
フィールド右側ではサイドでサカが仕掛ける際、前半はハーフスペースでサカのサポートに入っていたベンジャミン ホワイトが、後半はサカの外側をオーバーラップするようになる。
フィールド左側ではジャカがペナルティエリアに侵入するタイミングを少し遅らせ中盤での攻撃の組み立てに加わるようになる。
前半と後半の右サイドでの攻撃方法の変化(ベンジャミン ホワイトの動き方)
[システム図⑦-(1) 前半の攻撃]
⑦サカがマッチアップする⑭ペリシッチに対して仕掛けると、⑦ソン フンミンがペリシッチのヘルプに来る
④ベンジャミン ホワイトはソン フンミンが動いたことによって生じたハーフスペースのスペースに入り、サカをサポート
(20分アーセナルが先制点を挙げる直前の場面)
[システム図⑦-(2) 後半の攻撃]
サイドから仕掛ける⑦サカに対して後半④ベンジャミン ホワイトはサカの外側からオーバーラップしサカに対するマークを剥がしに行く
(49分アーセナルが2点目を挙げる直前の場面)
【ネガティブトランジション】
トッテナム陣内では前に出てマークを掴む。
【守備】
トッテナムのビルドアップに対してアタッキングサードからプレスに行く。
サカ、ジェズス、マルティネッリの前線3枚がトッテナムの3CBをマークし、ウーデゴール、ジャカはトッテナムの中盤ホイビア、ベンタンクールをマーク。強く前に出る時はウーデゴール、ジャカの2人はホイビア、ベンタンクールへのパスコースを消しながらトッテナムの3CBに向かう。
自陣では4-1-4-1のブロックを敷き、そこからマークを掴みに行く。
ブロックを敷いた時にトッテナムが後方でパスを回せば、ボールサイドのインテリオールが前に出てジェズスと共にボール回しに制限をかけに行く。
ディフェンシブサードでソン フンミン、リシャルリソンがディフェンスラインに対して仕掛けてきた時は中盤の選手がヘルプに来てダブルチームで守る。
トッテナム
【ネガティブトランジション⇒守備】
立ち上がりはアーセナルボールになれば前に出てプレスに行っていたが、プレスを剥がされる事が多く時間の経過とともにリトリートして5-4-1のブロックを敷きスペースを埋める事を優先するようになる。
ディフェンシブサードまで下がればケイン以外はペナルティエリア内のスペースを埋めゴール前をがっちりと固める。
49分アーセナルに勝ち越しゴールを許すとラインを上げ、ミドルサードからボールホルダーにアプローチするようになる。
62分エメルソン退場後暫くはクリスティアン ロメロやリシャルリソンがエメルソンのいたポジションを埋めようとしていたが、チームとしての明確な守備の形は見えずらかった。
71分4枚替えの選手交代を行い守備の陣形は5-3-1に定まる。
71分の選手交代とシステム変更で中盤は3対3の数的同数になると、アーセナルのアンカーがボールを持った際にビスマが前に出てプレスに行く事で中盤のマッチアップを噛み合わせる。
【ポジティブトランジション⇒攻撃】
最も効果的な攻撃はロングカウンター。リシャルリソン、ソン フンミン、ケインの前線3枚とスペースのあるサイドのウイングバック(WB)がスピードとパワーで前進しアーセナルゴールに迫る。
ビルドアップからの攻撃は3CBが起点。クリスティアン ロメロとラングレがハーグスペース付近に構え、ダイアーは中央エリアを前後に動いてボール捌く。3CBからベンタンクール、ホイビアの両ボランチへ縦パスを差し込み、そこから縦へと進む。両WBはボールの前進に合わせてサイドを上がる。
後半、ビルドアップからクリスティアン ロメロが前に出て攻撃参加する場面が多くみられた。
62分エメルソン退場後暫くは元のシステムからエメルソンが抜けただけのような状態が続く。71分の選手交代で攻撃時の陣形が3-5-1に定まる。
[システム図⑧]トッテナムのカウンターアタック(29分トッテナムがPKを奪う直前の場面)
自陣深くでボールを持った⑦ソン フンミンが一気に前進し、⑩ケインとのワンツーパスでアーセナルの中盤をブチ抜いてさらに前進
アーセナルのディフェンダー(⑥ベンジャミン ホワイト、⑥ガブリエウ マガリャンイス)がソン フンミンに対応しようとするが、外側のスペースをリシャルリソンがフリーランニングで突く
この図の後ソンフンミンはリシャルリソンにスルーパス
パスはズレてしまうがその後プレーでリシャルリソンがPKを奪う
試合の感想・ポイント
前半
アーセナルが高い技術力で主導権を握るが、トッテナムもカウンターの破壊力で対抗する
立ち上がりは両チームともに前に出てアタッキングサードからプレスに行くが、アーセナルはトッテナムのプレスに対して高い技術力を発揮。狭いエリアでの個人技やコンビネーションでトッテナムのプレスを剥がし前進する。すると時間の経過とともにトッテナムは相手ボールになるとリトリートするようになっていく。
アーセナルはフィールドプレーヤー全員がトッテナム陣内に侵入するほどトッテナムを押し込み、20分にはトーマスのミドルシュートで先制点を挙げる。
その後もアーセナルはポゼッションオフェンスでトッテナムを押し込み続けるが、トッテナムも自陣ゴール前に堅いブロックを形成しアーセナルの攻撃を防ぎつつ、アーセナルを自陣に引き込んでからのロングカウンターで対抗する。そして29分、トッテナムが凄まじい威力のカウンターアタックでPKを奪うと、ケインがPKを決めて同点に追いつく。
トッテナムにカウンターの威力をみせつけられたアーセナルはネガティブトランジションで形に関係なくボールホルダーに強く寄せて当たり前進を止めに行くようになるなど、トッテナムのカウンターに対してかなり警戒心を強めるようになる。
後半
アルテタ監督のハーフタイムでの修正が当たりアーセナルが勝ち越し、トッテナムを突き放す
自陣ゴール前にブロックを敷き守りを固めるトッテナムに対してアーセナルは攻撃方法を修正、49分に早速その効果が現れる。右サイドで仕掛けるサカの外側をベンジャミン ホワイトがオーバーラップ。サカはベンジャミン ホワイトをデコイに使いシュート。一旦はGKロリスがセーブするも、こぼれ球をジェズスが押し込みアーセナルが勝ち越しゴールを挙げる。
その後トッテナムは62分にエメルソンが退場するが71分に4枚替えの選手交代をするまでチームとしての明確なシステムが定まっていないように感じた。この時間帯にアーセナルはダメ押しの3点目を奪ったが、クリスティアン ロメロがマルティネッリのオフザボールの動([システム図⑥]参照)きにやられてしまったのはエメルソンの穴を埋める方法が不明瞭だった事も要因としてあるのではないか。
結局3点目のゴールがダメ押し点となりノースロンドンダービーはアーセナルの快勝となった。
アーセナルに対する感想
巧みな個人技とコンビネーションでハイプレスを剥がし、ゴール前を固められてもチーム全体でブロックの歪を突いてゴールを挙げる。攻撃面に関して巧さと力強さ、対応力の高さを感じた。
トッテナムのカウンターの威力にややナーバスになる時間帯もあったが、試合全体でみれば多くの時間帯で主導権を握り、狙い通りのサッカーができたのではないだろうか。
トッテナムに対する感想
ハイプレスは剥がされてしまい常に押し込まれる展開だったが、前半はがカウンターアタックの威力とゴール前を固める守備で対抗できた。
ただ、後半はアーセナルの修正された攻撃にやられてしう。エメルソン退場後の対応も対応もあまり良かったとは言えず課題が残る内容だった。
選手寸評
アーセナル
ガブリエウ ジェズス | 細かなタッチのドリブルでディフェンダーを剥がす場面が何度もあり調子の良さを感じた。49分のゴールもGKが弾いたこぼれ球に対して本人より前にいるディフェンダーの間に割って入って押し込むという、今日の調子の良さを象徴する動きだった。 |
ベンジャミン ホワイト | 攻撃時、前半は主にハーフスペースでサカをサポートをし、後半はサカの外側を頻繁にオーバーラップ。いずれもトッテナムの守備ブロック攻略に繋がる。 |
トーマス パーティ | マイボール時は攻撃の起点としてボールを左右に振り分け、相手ボールになれば的確なポジショニングで中盤のフィルターになる。20分にはコントロールの効いたシュートで先制点を挙げる。 |
オレクサンドル ジンチェンコ | 内側にポジションを絞りゲームメイクを担当。前線のマルティネッリやジェズスにボールを的確に供給し彼らの能力を引き出す。 |
ウィリアム サリバ | ハイレベルなフィード能力で中盤や前線にボールを供給し、それが得点にも繋がる。守備でも的確なカバーリングをみせるなど攻守両面で活躍した。 |
マルティン ウーデゴール | 相手チームがプレスをかければダイレクトやワンタッチのパスでプレスを剥がし、下がってブロックを敷けば急所を射抜くスルーパスでブロックを崩しにかかる。攻撃面での引き出しの多さをみせた。 |
トッテナム
ソン フンミン | 縦に進む時の推進力、突進力は凄まじいものがあった。トッテナムのカウンターアタックは彼に支えられていると言っても過言では無いほどのパフォーマンスだった。 |
イバン ペリシッチ | 戦術上はサブキャスト的な役割を担っているが、能力は前線3人に匹敵する。彼が脇に控えている事が相手チームにとっては脅威になる。 |
ロドリゴ ベンタンクール | 後方と前線を繋ぐリンクマン。ディフェンダーが攻撃参した時は下がってスペースを埋めるなど、常に状況に沿った的確なプレーでチームに貢献していた。 |
クリスティアン ロメロ | エメルソンの退場により割を食った印象だが、力強いディフェンスや機をみての攻撃参加など自身の力は発揮できていた。 |
投稿主選出の man of the match
ガブリエウ ジェズス
以上、アーセナル 対 トッテナム ホットスパー 戦のマッチレビューでした
本レビューは、あくまで投稿主個人の考えや感想を記事にしたものです。
本レビューに対して、ご意見やご感想があれば下のコメント欄よりコメントを頂ければ幸いです。
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