欧州サッカー観戦記 UEFAチャンピオンズリーグ Round of 16 2nd leg week1 その②

チャンピオンズリーグ観戦記 UEFAのコンペティション

UEFAチャンピオンズリーグ Round of 16 屈指の好カード
レアル マドリード 対 パリ サンジェルマンの一戦は大逆転での決着となりました
今回はそのレビューです

Round of 16 2nd leg week1 結果

2022年3月9日
バイエルン ミュンヘン 7-1 レッドブル ザルツブルク
(2戦合計 8-2 バイエルン 勝利)

2022年3月9日
リヴァプール 0-1 インテル
(2戦合計 2-1 リヴァプール 勝利)

2022年3月10日
マンチェスター シティ 0-0 スポルティングCP
(2戦合計 5-0 シティ 勝利)

2022年3月10日
レアル マドリード 3-1 パリ サンジェルマン
(2戦合計 3-2 レアル 勝利)

今回は レアルマ ドリード 対 パリ サンジェルマン 戦をレビューします

※同カードの1st leg はこちらでレビューしております、よろしければご覧下さい

レアル マドリード 対 パリ サンジェルマン

2022年3月10日 UEFAチャンピオンズリーグ Round of 16 2nd leg
レアル マドリード 3-1 パリ サンジェルマン
(2試合合計 3-2 レアル マドリード 勝利)

新旧銀河系軍団対決

パリは150分間レアルを圧倒するも、ラスト30分で力尽きる

メンバー

レアル マドリード
監督 カルロ アンチェロッティ

【スタメン】

1 ディボウ クルトワ (GK)
2 ダニエル カルバハル
3 エデル ミリトン
4 ダビド アラバ
6 ナチョ フェルナンデス
8 トニ クロース
9 カリム ベンゼマ
10 ルカ モドリッチ
11 マルコ アセンシオ
15 フェデリコ バルベルデ
20 ビニシウス ジュニオール

【交代】

21 ロドリゴ (58分In)
➡アセンシオ Out
25 エドゥアルド カマビンガ
(58分In)
➡クロース Out
17 ルーカス バスケス (66分In)
➡カルバハル Out

パリ サンジェルマン
監督 マウリシオ ポチェッティーノ

【スタメン】

50 ジャンルイジ ドンナルンマ (GK)
2 アクラフ ハキミ
3 プレスネル キンペンベ
5 マルキーニョス
6 マルコ ベラッティ
7 キリアン エンバペ
8 レアンドロ パレデス
10 ネイマール
15 ダニーロ ペレイラ
25 ヌーノ メンデス
30 リオネル メッシ

【交代】

27 イドリサ ゲイェ (71分In)
➡レアンドロ パレデス Out
11 アンヘル ディマリア (81分In)
➡ダニーロ Out
23 ユリアン ドラクスラー (89分In)
➡ハキミ Out

基本システム

左:レアル マドリード(白) 右:パリSG(紺)

[システム図①]
試合開始時

[システム図②]
58分レアル ロドリゴ、カマビンガ投入

[システム図③]
66分レアル ルーカス バスケス投入
71分パリSG ゲイェ投入

[システム図④]
81分パリSG ディマリア投入

得点経過

【39分・パリSG】得点者:キリアン エンバペ
パリSGは自陣でブロックを敷いての守備。レアルがサイドチェンジし右サイドバック(SB)のカルバハルにボールが渡ると、そこへヌーノ メンデスがプレスに行きさらにレアンドロ パレデスも来てボールをカット、ボールは内側にこぼれる。この時エンバペはレアルゴールに向かってスタートを切り、こぼれ球をネイマールがダイレクトで左のスペースに送る。
ボールはスペースを走るエンバペに渡ると、エンバペは左サイドからレアルゴールへ。アラバがカバーに来るもエンバペは迷わずシュートを放ちゴール。

【61分・レアル マドリード】得点者:カリム ベンゼマ
パリSG陣内、ヌーノ メンデスがゴールキーパー(GK)ドンナルンマにバックパス。ここでベンゼマがドンナルンマに猛然とチェイシング。
ドンナルンマは苦し紛れに右側にボールを蹴りだすが、このボールを前に詰めていたビニシウスが確保し、ゴール前のベンゼマへ送るとベンゼマが決める。

【76分・レアル マドリード】得点者:カリム ベンゼマ
モドリッチが自陣右ハーフスペースからドリブルで上がって行き、パリSGの選手3人を剥がすと左ハーフスペースを走るビニシウスにスルーパス。ビニシウスはペナルティーエリアまで到達するが、ダニーロが戻ってビニシウスをストップ、その間にパリSG守備陣もゴール前に戻り守備組織の構築にかかる。
ビニシウスは後方から来たモドリッチにボールを渡すとモドリッチは間髪入れずにディフェンスラインのギャップから裏に抜け出したベンゼマにスルーパス。ベンゼマがシュートしゴール。

【78分・レアル マドリード】得点者:カリム ベンゼマ
76分のゴール後のキックオフ。レアルがいきなりボールを奪うとモドリッチが左ハーフスペースを走るビニシウスにスルーパス。ビニシウスがパリSGゴールに向かうがカバーリングに来たマルキーニョスがビニシウスからボールをカット、ボールは中央にこぼれる。このこぼれ球に右側から走り込んで来たベンゼマがダイレクトでシュートしゴール。

局面ごとの方針

レアル マドリード

【攻撃】
ビルドアップはミリトン、アラバの2センターバック(CB)の前にクロースが立ち、モドリッチもクロースと同じ高さまで下がる2-2の並び。バルベルデはパリSGのライン間を幅広く動きパス回しの中継点になる。
前進する時にパリSGの中盤3枚の脇のスペースを使い、パリSG側がボールサイドにラインを絞ればサイドチェンジとパリSGに対してラインのスライドを強いる形でボールを回す(スライドを強いた事が60分以降に効いてくる)。
アタッキングサードまで来れば右はアセンシオ、左はビニシウスがサイドから仕掛ける。

[システム図⑤]
試合開始から57分までの、ビルドアップ時の布陣

後半は立ち上がりから57分までは左サイドからの攻撃が増える。ナチョ フェルナンデス、モドリッチ、ビニシウスのトライアングルでサイドから守備ブロックを崩しに行き、アラバも攻撃参加。左で攻撃が詰まればサイドチェンジ。
58分ロドリゴ、カマビンガが投入されると、カマビンガがピボーテとしてパス回しの中心になり、彼を起点にテンポよく左右にボールを散らす。ロドリゴは右ハーフスペースを中心に動き、時には中央まで入って来て攻撃に絡む。

[システム図⑥]
58分以降の攻撃へ移行する時の並び

【ネガティブトラジション】
ボールを奪われればボールに近い選手からマークを掴み前に出てプレスに行く。
前半はパリSGがポゼッションを確立しそうな時は深追いせずにマッチアップする相手をみながら距離を取る事が多かった。
後半はフィールド全体で強めに寄せて行く。

【守備】
パリSGのビルドアップに対して前に出てアタッキングサードからプレス。
前半はフォアプレスを徹底できなかったが(徹底できなかった理由は後述)、後半は前からのプレスを徹底していた。
自陣まで下がれば4-1-4-1のブロックを敷く。
エンバペのディフェンスライン裏への飛び出しに対してはミリトンが対応。

パリSG

【ポジティブトラディション】
ボールを奪えばエンバペがレアルのディフェンスラインの裏にあるスペースに走り出す。その動きに合わせてボールが出ればカウンターアタック発動、一気にレアルゴールへと迫る。
ディフェンスラインの裏へボールが出せない、又はエンバペがスタートを切れない時はレアンドロ パレデス、ベラッティを中心にポゼッションを確立。メッシ、ネイマールもパスを受けに下がる。

【攻撃】
ビルドアップはマルキーニョス、キンペンベの2CBの前にレアンドロ パレデスが立つ2-1の並びで、ハキミ、ヌーノ メンデスの両SBはサイドを上がり攻撃の幅を確保。レアルのフォアプレスを受ければベラッティが下がってビルドアップをサポートする。
レアンドロ パレデスを中心にパスを回しメッシ、ネイマールがライン間でボールを持つ事でレアルの守備ブロックを押し込み、それに合わしてベラッティ、ハキミ、ヌーノ メンデスは前進。
後半はレアンドロ パレデス、ベラッティ、ネイマールのトライアングルでパスを回し前進するパターンもよくみられた。

[システム図⑦]
ポゼッションオフェンス時の布陣

アタッキングサードまで来ればエンバペは前線を左右に動きディフェンスラインの裏を狙う。
フィニッシュは裏へ抜けるエンバペへのスルーパスか、レアルのディフェンスライン手前で繰り出されるメッシとネイマールのコンビネーションが中心。

【ネガティブトラジション】
マークを掴みには行くが、マッチアップする相手に対して間合いを取る事が多かった。

【守備】
守備陣形は4-3-3、ミドルサードで待ち構える。レアルがミドルサードに入って来ればボールに寄せつつ下がりながらレアルの前進する勢いを吸収する。
守備陣形が下がるごとに、中盤のラインとディフェンスラインはお互いの距離を縮め、ダニーロがディフェンスラインまで下がってガーバーリングに入るなどディフェンスラインを厚くして守る。

守備陣形は4-3-3と記したが、実質は「4-3+ネイマールがサポート」という形。
エンバペはカウンターアタックに備え前残りし、メッシも右ハーフスペースでポジティブトラディション後の展開を意識したポジショニングをするので彼ら2人が守備に参加することは少なく、仮に参加したとしても後追いになる事が多かった。

[システム図⑧]
基本的な守備陣形

試合の感想・ポイント

前半

パリSGがレアルを圧倒するが、レアルも後半に向けて布石を打つ

立ち上がりから10分頃まではレアルが敵陣で前に出てプレスをかける事でパリSGを押し込む。パリSGも時折カウンターを繰り出し反撃するも、主導権はレアルが握ったようにみえた。しかし10分を過ぎるとレアルのプレスが弱まりだしパリSGがボールを支配。次第にレアルを押し込み試合の主導権を握り返す。
レアルのプレスが弱まった要因について放送席解説(wowow)の安永聡太郎氏は「レアルは攻め終わりが長いボールを蹴って終わる事が多い。その為、陣形が間延びした状態で攻守が切り替わり、前からプレスをかけるための人数が担保されていない」と説明していた。
試合の主導権を握ったパリSGは速攻・遅攻いずれもレアルに対して脅威を与える。そして39分自陣からのカウンターアタックが炸裂、エンバペがレアルゴールを射抜き2試合合計スコアでリードを2点に広げる。

1st legに続き2nd legの前半もレアルを圧倒したパリSG。
しかしレアルは前半パリSGにラインのスライドを強いる攻撃(詳細は 局面ごとの方針【攻撃】欄を参照)を展開。39分の失点はこの攻撃中(サイドチェンジ後)のボールロストにより、ミリトンがエンバペに対応できず奪われたものだった。しかしこの攻撃はパリSGに対して、じわじわとダメージを与える事となる。

後半

レアルが怒涛の反撃、パリSGは勝利まであと30分のところで組織が崩壊してしまう

後半の立ち上がり、レアルは前からマークを嵌め込めてプレスに行きパリSGを押し込む。パリSGも60分まではレアルのプレスをかわしてのポゼッションオフェンスや、ポジティブトラディションからカウンターを打つといった反撃をみせていた。
しかし61分、レアルがベンゼマのチェイシングから1点を返すと状況は激変。以降は一方的なレアルペースとなる。
何故レアルペースとなったのか、その理由は

(1)レアルは1点を返し、更にホームの声援も相まって勢いづいた

(2)レアルのパリSGに対して行たラインのスライドを強いる攻撃が効いてきた

以上の2点が考えられる。
特に(2)に関して、パリSGは元々守備時に前線の選手のボールホルダーに対する制限が弱く、中盤から後方の選手の負担が大きという問題があった。そこにラインのスライドを強いられた事でパリSGの中盤から後方の選手は足を使わされ、スタミナを消耗。61分以降足が止まってしまった。
中盤から後方の選手の足が止まればラインは下がり、必然的に攻撃の開始位置も後方へ下がる事になり攻撃の際の負荷が大きくなる。そうなるとアタッカー陣への負担も増大。パリSGは完全に負のスパイラルに嵌る事になる。

自分達が消耗し、そこにレアルの猛攻を受けた事でパリSGは組織として殆ど機能しなくなる。
それでも、81分にディマリア、89分にユリアン ドラクスラーを投入。立て直しを試みるがパリSGには反撃に転じる余力は残っていなかった。
2試合合計スコア3対2、レアル マドリードが逆転で準々決勝進出となった。

レアル 対 パリSG 2試合通じての印象とパリSGの課題

メッシ、ネイマール、エンバペと超強力なアタッカー達を擁するパリSG。
チームにとって最優先すべきことはアタッカー陣の攻撃力を最大限に発揮させる事。その考えの元、チームはアタッカー陣の守備面のタスクを減免、その分の守備面の負担を残り7選手が負う事になる。
この方法論は最新の戦術トレンドからは完全に反するものの、パリSGにとっては最高の結果を得る為の最良の選択として、ここまで戦ってきた。
ただパリSGは、この戦い方に於ける最適解を未だ見いだせてはいない、というのが私の印象です。

勿論、シーズン前半と比較すれば進化している部分はあります。
ダニーロとハキミが守備面で連携することにより、レアルの左側からの攻撃をかなりの部分で抑えていました。
レアンドロ パレデス、ベラッティのパス回しは、レアルを相手にしてもボールを支配し主体的に攻撃を組み立てていました。
1st legそして2nd legの前半まではパリSGの進化とアタッカー陣の能力が噛み合い、素晴らしいサッカーを披露しました。しかし2nd leg後半、特に61分以降は完全に足が止まってしまい組織は崩壊。そして未解決の課題がいくつも露見してしまいました。
その中で最大の問題は攻守のバランスです。
例えばメッシ。彼は今でも素晴らしい選手であることは疑いありません。しかし数年前のような圧倒的な存在感は影を潜めつつあります。そんなメッシに対してどこまで守備面のタスクを負わすべきなのか。そこには、メッシの攻撃力とチーム全体の負担を天秤にかけ、最適なバランスを再度探る必要があります。
また、攻守のバランス以外の課題としてネイマールの活かし方も考えなくてはいけないと思います。
ネイマールは近年、攻撃の組み立てに関与することが増えています。その分相手ゴール前での決定機に関わる割合はどうしても減ってしまいます。カウンターアタックの起点としての役割もあり、そのあたりのバランス調整は非常に難しいのですが、ネイマールに対してどのような役割を与えるかについても考える余地は多々あると思います。

アタッカー陣の守備面のタスクを減免しているパリSGに対して、レアルは61分ベンゼマのチェイシングとそれに呼応して前に詰めたビニシウス、彼らの献身的な守備から反撃の狼煙を上げるゴールを奪いました。
こらはパリSGにとって「厳しい現実を突き付けられた」と私自身感じました。
但しレアルに敗れたからと言って全てを否定する事はないと思います。1st lgの内容は素晴らしかったし、グループステージではマンチェスター シティと1勝1敗でした。国内リーグでは首位を走っています。チームのポテンシャルは相当に高いと思います。
このチームが本当の意味で完成する日が来るのか、それとも完成を前に解体されてしまうのか、サッカーファンとして見守っていきたいと思います。

選手寸評

レアル マドリード
カリム ベンゼマ 反撃の狼煙は彼のGKへのチェイシングから。その後の怒涛の攻撃では決定機を確実に決めてハットトリック。大逆転の立役者に。
ルカ モドリッチ レアル怒涛の攻撃の中で、立て続けに決定的なプレーをし、ベンゼマのハットトリックを見事に演出。
ビニシウス ジュニオール ダニーロ、ハキミの厳しい守備に抑え込まれる場面もあったが、調子は決して悪くはなかった。諦めずに攻め続け後半の逆転劇に貢献。
エドゥアルド カマビンガ 後半途中から出場しテンポの良いパス回しをみせ、ロドリゴとともにチームの攻撃を加速させた。
エデル ミリトン エンバペの爆発的なスピードに必死に食らいついた。1点は失ったものの守備で逆転勝利に貢献。
パリSG
キリアン エンバペ パリSGアタッカー陣の中でも彼の攻撃力は桁違い。今後パリSGは彼の力をどのように活かしていくのかを見守っていきたい。
ダニーロ ペレイラ 中盤でレアルの攻撃を食い止め、状況によってはディフェンスラインまで下がってカバーに入るなど守備面で重要な役割を担った。
アクラフ ハキミ 攻撃面での役割は限定的だったが、守備面ではビニシウスとのマッチアップで奮闘した。
レアンドロ パレデス 攻撃の起点として的確なプレーを披露。彼のコンディションもこの試合の結果に大きく影響を与える要素の一つだった。

投稿主選出の man of the match

カリム ベンゼマ

 

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